宗教法人は銀行から融資を受けることができるでしょうか。コロナの影響で収入が激減し、国の救済制度の無担保無利息融資を希望する宗教法人もありましたが現状は融資を受けることができなかったと聞いています。宗教法人も本堂の修繕などに多額の費用が必要になる場合があります。そのためにどのような対策を取っておくべきでしょうか。
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貸すことより返してもらうことが大事。
金融機関が融資をするとき、まず一番気にすることは「貸しても返してもらえるかな」です。金融機関にとって融資業務は、貸すことではなく返済してもらうことが重要です。そのため、一見さんだと、どのような事業主なのか把握できないので、宗教法人であれ株式会社であれ、一見さんはなかなか融資してもらえません。
そのため、将来的に融資の需要がある寺院は日頃から金融機関と懇意にして信頼関係を築いておく必要があります。
審査するためには書類が必要。
金融機関が融資をするときは、当然に審査が行われます。その書類は過去3年間の決算書や資金繰り表、事業計画書などあります。収益事業を行っていない寺院は決算などしていません。この時点で、ほとんどの宗教法人は書類を用意できないため審査の土台にすら乗れずに、結果、融資を受けることができなくなります
利益相反などの手続的リスクは回避しておく。
資金使途によっては、代表役員である住職と宗教法人との間で利益相反になるケースがあります。利益相反とは、住職とお寺の利益構造が対立するケースです。例えば、住職個人が所有している土地をお寺で買い取るとします。この場合、土地を高く買えばお寺は損をして住職は得をします。逆の場合もあります。どちらかが得をするとどちらかが損をするという構造を利益相反取引といいます。
この利益相反取引が生じる場合は、仮の代表役員を選任して責任役員会の議決を得ておく必要があります。議決を得た旨の責任役員会議事録がないと金融機関は融資をしてくれません。
宗教法人の規則も要確認。
規則に書かれた手続きも必要です。返済期間が1期以上にまたがる場合や、大規模修繕を行う場合など責任役員会の議決を得るといった手続きが必要です。各寺院によって、規則の内容が変わるので確認してください。また宗教法人法の規定も要確認です。この手続きを経ていないと金融機関は融資をしてくれませんので、借りたいときに借りれない可能性がでてきます。しっかりと事前確認しておきましょう。
住職個人で借りることも検討してください。
このように、宗教法人が融資を受けるには多くのハードルがあります。特に、会計帳簿がそろっていないのは大きな壁となります。しかし、融資が必要なケースはあります。その場合は、住職の個人資産を担保に住職個人が融資を受けて、住職が宗教法人に貸し付ける方法も検討してください。もちろん、住職が個人資産を有していることが前提になります。住職が宗教法人に貸し付けるときは、金銭消費貸借契約書、責任役員会の議事録(利益相反になるため)など書面に残しておくことをお勧めします。
日頃からの積み立てが一番無難。
住職個人からの貸付は方法論としてありえますが、住職自身がリスクを負うことになります。結局は、宗教法人が融資を受けるにはハードルが高いため日頃から修繕費などの積立を行っておくことが無難です。とくに、コロナなどの緊急事態によって資金不足に陥るリスクは宗教法人にかかわらずありますが、一般の企業と違って、宗教法人には政府からの支援もなく融資も受けることが難しいのが現状です。
生命保険などを活用して、いざという時は、契約者貸付という制度を利用することもできます。
さいごに。
日頃からの積み立てが大事と口で言うのは簡単です。しかし、現状、苦しんでいる寺院もたくさんあります。結局は、積み立てをするにも、日頃からの檀信徒との付き合いなど人と人のつながりを大事にし、寺院のコンプライアンスの整備など、法人として基礎的なことを大事にしていくことが必要です。お寺は人が困ったときに手を差し伸べることができますが、お寺が困ったときに手を差し伸べてくれる人は少ないものです。包括団体も基本的には何もしてくれないことが多いです。いざという時に助けがないのが宗教法人です。そのことを踏まえて日頃からの備えが重要となります。
これからの寺院運営にお悩みやご不安を抱えている方は、当職までお気軽にご相談ください。