先代から引き継いだお寺の納骨堂が既にいっぱいで管理料ももらっていない。このような悩みを抱えている宗教法人から相談が寄せられることがあります。もちろん勝手に処分するわけにはいきません。そこで、その対処法について解説します。
目次
合祀して空きスペースを確保する
納骨堂のスペースが満杯になることは、多くの運営者が直面する課題です。新たな納骨堂の建設が難しい場合、既存の区画を効率的に活用するため、合祀(複数の遺骨をまとめて埋葬すること)が有力な選択肢となります。
しかし、合祀はデリケートな問題であり、後のトラブルを避けるためには適切な手続きと配慮が必要です。
祭祀承継者と合意のうえ合祀する
トラブルなく解決するには、祭祀承継者と合祀する旨の合意を書面に残して、納骨壇から合祀墓に移すことです。後述しますが、管理規約や申込書に納骨期限を明記していれば、それに基づいて通知のうえ合祀しましょう。
規約や申込書に何も記載していなければ、13回忌、33回忌、50回忌などの節目に合わせて祭祀承継者の方に提案してみるのもいいかもしれません。簡単なことではないかと思います。
ですが、納骨壇の数には限りがありますし、管理料をとっていないお寺さんだと、納骨堂がいっぱいになると管理業務のみ残され大きな負担となります。諸事情を考慮してもらい、納骨壇を空けていただく相談をしましょう。
管理料滞納などを理由に解約のうえ合祀する
納骨堂の管理規約に管理料の定めがあり、滞納の場合に解約できる条項が盛り込まれている場合は、通知のうえ遺骨の引き取りをお願いします。手順としては、滞納分の支払いの請求(期限付き)を行い、それでも支払がない場合は規約の条項に基づき解約手続きのうえ引き取りを請求しましょう。
実際は、それでも返事がこないとか無視されることもあるかと思います。その場合に備えて、引き取ってもらう代わりにお寺側において合祀するというアナウンスをいれて、承諾を取るという方法も考えられます。
無縁墓地等として改葬手続きを行う
祭祀承継者の行方がしれない場合、無縁墓地(納骨堂)として改葬手続きのうえ合祀する方法もあります。注意する点は無縁改葬の手続きは墓地埋葬法施行規則第2条・3条に記載されていますが、あくまで手続きについての規定であり、祭祀承継者の遺骨に対する所有権までも排除するものではありません。
そのため、合祀するといっても、あとで関係者から返還請求された場合に備えて、20年間は個別に安置しておく必要があります。(無縁改葬については詳しい内容はコチラ)
納骨堂の数を拡張する
納骨堂の需要増加に対応するため、既存の納骨堂の数を拡張したり、新たな場所に設置したりすることを検討するケースが増えています。しかし、いずれの場合も行政の許可が必要であり、その手続きは状況によって異なります。
同じ敷地内に納骨堂の数を増やす場合
納骨堂を経営するには行政の許可を得る必要があります。その許可には、納骨壇の数や配置図を提出して行います。納骨堂の数を拡張する場合は、行政の許可済の納骨壇の数と異なってくるため、その旨の変更許可申請を行います。
別の場所に納骨堂を新たに設置する場合
現在ある納骨堂と別の場所にあるところに納骨堂を新たに新設する場合は、上記の変更許可申請ではなく、新設の納骨堂経営許可が必要になります。場所が変わるだけで、必ず新設許可になるというわけではありません。
例えば、異なる市町村に新たに納骨堂を設置する場合は、納骨堂の許可権者が変わりますので、新規の経営許可申請になります。しかし、現在の納骨堂に隣接する場所に増設するのであれば変更許可になるでしょう。
隣接していれば、必ず変更許可で足りるとも言いがたいので、どちらの許可申請が必要になるかは事前に行政と確認を行ってください。
納骨堂を開始する時点での計画性が重要
墓地もですが、お寺の敷地内にある納骨堂は数に限りがあります。そうすると、いずれ納骨堂はいっぱいになり新規での受付ができなくなります。そうすると、新しく納骨堂を準備する必要がでてきますが、近隣住民との関係や地方の墓地納骨堂の状況、予算の問題などで簡単に増やすことはできません。
納骨堂を建てる建築費や内装、納骨壇を仕入れる費用など考えると、やはり納骨堂を新規にはじめるときの計画性が重要といえます。
全体の収支もそうですが、いずれ納骨堂がいっぱいになることも考えると、維持していくための管理費等は徴収できるように考えておく必要があります。
納骨堂管理規定を見直しましょう
現在お持ちの納骨堂管理規定には、管理料の徴収や、契約の解除、祭祀承継者の確認に関する条項などは入っていますでしょうか。管理規定はあるものの不十分な内容の規定だといざというときに役に立ちません。
極端な話、トラブルや困りごとがなければ管理規定などいらないのかもしれませんが、何かあったときの拠り所になるのがしっかりした管理規定の存在です。ご興味ある方は管理規定に関する記事もご参考になさってください。
詳しくは「ひな形にはない??墓地納骨堂管理規則の作成ポイントとは」に書いてありますのでご参照ください。
まとめ
先代から引き継いだ納骨堂が満杯で、しかも管理料を徴収していないという状況は、多くの宗教法人が抱える深刻な悩みです。このような場合、故人の遺骨を勝手に処分することは許されず、適切な対処法が求められます。
納骨堂のスペース確保には、大きく分けて合祀による解決と納骨堂の拡張という二つのアプローチがあります。合祀は、祭祀承継者の同意を得て行うのが最も円滑ですが、管理料の滞納や祭祀承継者不明の場合は、管理規約に基づいた解約手続きや、無縁墓地としての改葬手続きを検討することになります。
特に、無縁改葬の場合でも、後々のトラブルを防ぐために遺骨の所有権に関する民事上の責任を理解し、可能であれば一定期間の個別安置を考慮することが重要です。
一方で、納骨堂の数を増やす場合は、同じ敷地内での増設であれば変更許可申請、別の場所での新設であれば新規の経営許可申請が必要となり、いずれも行政との事前協議と適切な手続きが不可欠です。
これらの問題に共通して言えるのは、納骨堂経営における計画性の重要さです。納骨堂のスペースには限りがあるため、将来的な満杯状態を想定し、管理費の徴収体制を確立しておくことが維持管理の要となります。
また、トラブル発生時の拠り所となる納骨堂管理規程の見直しは、その内容が「かゆいところに手が届く」実効性のあるものであるかを確認し、必要に応じて整備することが、長期的な安定運営に不可欠です。