宗教法人の合併とは?手続きの流れも解説!

1 合併とは

宗教法人の合併とは、2つ以上の宗教法人が1つの宗教法人になることをいいます(宗法第32条)。後継者がいない寺院、住職が2か所以上を兼務している寺院、過疎化の影響を受けている寺院など運営上の問題から合併する場合や教義の問題から合併するなど様々な理由から合併が行われます。

2 合併の方式

合併の方法としては、合併する宗教法人の一方が存続し他方がこれに併合される「吸収合併」(宗法第35条第1項)と、いずれの宗教法人も全く消減し、新たな別の宗教法人を創設する「新設合併」(宗法第35条第2項)とがあります。
例えば、A宗教法人とB宗教法人が合併するとします。この場合、「吸収合併」では、A宗教法人はB宗教法人に吸収されて消滅し、B宗教法人のみが残ります。「新設合併」の場合だと、A宗教法人とB宗教法人はいずれも消滅して、新たなC宗教法人が設立されます。
どちらの形態を選ぶかは、合併の目的によりますが、どちらでも可能な場合は、名義変更手続などを考えると、吸収合併の方が費用や手間は少なくなります。なぜなら、吸収合併の場合だとB宗教法人名義に関するものはそのまま使えますが、新設合併の場合は、A宗教法人名義とB宗教法人名義の両方をC宗教法人名義に変更する必要があるからです。

3 包括承継

合併によって解散した宗教法人の権利義務は、合併後存続するする宗教法人が全て承継します(宗法第42条)。これを包括承継といいます。先程の吸収合併の例でいうとA宗教法人が有していた権利義務(例えば、収益事業を行っていた場合の売掛金などの債権や借金などの債務、その他墓地経営許可などの許認可など。)は、全てB宗教法人に承継されることになります。新設合併の場合は、A宗教法人とB宗教法人の権利義務をC宗教法人が承継します。

4 合併の時期

合併は、登記により効力が生じます(宗法第41条)。吸収合併の場合において合併後存続する宗教法人(B社)を除き、合併した宗教法人はすべて解散することになります(宗法第43条第2項第2号)。通常、宗教法人が解散するときは清算人による清算手続きが取られますが(宗法第49条、宗法第49条の2)、合併により解散する場合、清算手続は不要になっています(宗法第49条第1項柱書括弧書)

5 合併の手続

(1)吸収合併、新設合併どちらにも必要な手続

ア 規則で定める合併の手続

合併しようとする宗教法人は、まず、規則に従って手続を行う必要があります。一般的には、所轄庁の認証の点を除き、規則変更の手続きと同様か、議決権が加重された手続になっているかと思います。規則に手続を定めていない場合には、責任役員会が責任役員の定数の過半数の議決によって決定することになります(宗法第34条第1項、同法第19条)。
その際、合併契約書案が必要になります。合併契約書案は、合併当事者において協議の上作成します。合併契約の内容は、新たに宗教法人を設立する際に決めるべき内容と似ており、通常、次のような事項が必要とされます。

(ア) 合併の種類(吸収合併又は新設合併)と効力
(イ) 合併後存続する宗教法人又は新設される宗教法人の名称、目的、事務所及び役員の員数・任免等並びに被包括関係、基本財産、祭神・本尊等、宝物等の取扱い
(ウ) 合併により解散する宗教法人の役員、教師、信者、祭神・本尊等、宝物等の取扱い
(エ) 合併する宗教法人の財産処分等の取扱い
(オ) 契約の解除に関すること
(カ) 契約の効力発生日
(キ) その他契約条項にない事項の取扱い
(参考「宗教法人の管理運営の手引 第二集 宗教法人の事務」ぎょうせい出版)

イ 合併しようとする旨の公告

合併は、信者その他の利害関係人にとっては大きな問題です。そこで、合併する事実を事前に知らせることで異議申し立ての機会を作る必要があります。合併しようとする宗教法人は、信者その他の利害関係人に対して合併契約の案の要旨を示してその旨を公告しなければなりません(宗法第34条第1項)。

ウ 財産目録及び貸借対照表の作成

合併しようとする宗教法人は、信者その他の利害関係人に対して合併契約の案の要旨を示してその旨を公告した日から2週間以内に財産目録を作成しなければなりません。また、公益事業や公益事業以外の事業を行う場合には、その事業に係る貸借対照表をも作成しなければなりません(宗法第34条第2項)。
財産目録は常に事務所に備えておかなければならない資料です。貸借対照表については作成した場合に、財産目録と同様に事務所に備えておく必要があります(宗法第25条第2項第3号)。これらの書類は、信者その他利害関係人に閲覧することについて正当な利益がある場合は、閲覧させなければなりません。ただし、閲覧する目的が不当なものである場合は拒むことができます(宗法第25条第3項)。

エ 債権者に対する公告と催告

合併をしようとする宗教法人は、信者その他の利害関係人に対して前記イの公告を行った日から2週間以内に、今度は債権者に対して、合併に異議がないかどうかの公告をしなければなりません(宗法第34条第3項)。
これは合併に異議がある債権者に対して、公告の日から2月以上の期間を定めた一定の期間内にそのことを申し述べて下さいと知らせるためのものです。
また、公告とは別に、特に知っている債権者に対しては、個別にこの公告の内容を知らせなければなりません。(宗法第34条第3項)。

合併を行うと、債務は残存する宗教法人に移ることになります、そこで債権者保護のためにこの手続が必要となります。
例えば、お金をA宗教法人に貸していたとします。A宗教法人だからお金を貸したのに、知らない間に資力のないB宗教法人に貸していたことになるとすれば債権者は困ってしまいます。
そこで、特定の債務を第三者が引き受ける場合(債務者が変わる場合)、債務引受(民法472条)といって通常は債権者の承諾が必要になってきます。しかし、合併は包括承継なので、債権者の承諾なく行うことができます。

包括承継という難しい言葉が出てきました。ここでは、詳細な説明は割愛させて頂きますが、たとえば同じ包括承継である相続をイメージしてください。親の借金を子供が相続する場合、債権者に相続を認めるか認めないかという選択肢はなく、当然に承継されます。このように包括承継は、債権者の承諾が不要となっています。
しかし、合併は、相続の場合と異なり、当事者の自発的な意思によって行われます。この場合に、相続と同じように債権者の承諾を全く不要とすると債権者は不意の損害を被る可能性があります。そこで、債権者を保護するために、異議申し立ての機会を与えるという手続が必要になってきます。

債権者から異議申し立てがなされれば、当該宗教法人はその債権者に借金を返済するなど債務の弁済をし、若しくは、担保を提供するか、又は、債務の弁済のために相当の財産を信託会社若しくは信託業務を営む銀行に信託しなければなりません。
ただし、合併をしても債権者に不利益とならないのであれば弁済若しくは担保提供、又は信託をする必要はありません(宗法第34条第4項)。
なぜなら、弁済などの義務を生じさせるのは、あくまで、合併によって債権者に不測の損害が生じるのを防止するためであり、そもそも債権者を害することがないのであれば、弁済などする必要がないからです。債務者には、弁済期までは返さなくてもいいという期限の利益があるので、債権者を害さない以上、債務者の期限の利益も守る必要があります。

オ 合併により被包括関係の設定又は廃止をする場合の手続

合併後存続する宗教法人又は新設される宗教法人が、合併に伴って被包括関係の設定又は廃止をしようとするときは、規則の変更が必要になります(宗法第12条第4号)。規則変更なので所轄庁の認証が必要になります(宗法第27条、第28条)。
合併によって被包括関係の設定又は廃止するための規則変更手続きは、所轄庁に認証申請する少なくとも2月前までに、信者その他の利害関係人に対して、被包括関係の設定又は廃止をする旨の公告を行う必要があります。
また、新たに被包括関係を設定しようとするときは、規則変更の認証申請をするまでに、包括宗教団体の承認を受けなければならず、被包括関係を廃止する場合は、規則変更の認証申請をするまでに、包括宗教団体にその旨を通知しておかなければなりません。
なお、被包括関係の設定又は廃止に係る公告は、合併の広告と合わせて行うことも可能です(宗法第37条)。

(2)吸収合併に伴い存続する宗教法人の規則を変更する場合の手続

吸収合併によって存続する宗教法人にその規則の変更が必要となる場合、存続する宗教法人の規則の定めに従い、規則変更手続を行います(宗法第35条第1項)。

(3)新設合併の手続

新設合併の場合は、吸収合併と異なり、合併によって今まで存在しなかった新しい宗教法人が誕生します。そのため、新設される宗教法人の規則を新たに作成する必要があります。作成者は、合併しようとする各宗教法人がそれぞれ選任して決めます。
選任された者は、共同で、新設する宗教法人の規則の案を作成し、合併の認証を申請する少なくとも2月前までに、信者その他の利害関係人に対して、規則の案の要旨を示さなければなりません(宗法第35条第2項、第3項)。
なお、この広告も、被包括関係の設定又は廃止に係る公告や合併の広告と合わせて行うことが可能です。公告は合併しようとする各宗教法人と規則作成者とが共同して行います。(宗法第37条)。

6 合併の認証

(1)所轄庁への認証申請

上記各手続きが完了したら、合併契約を締結し、各手続を経たことを証する書面を添えて、所轄庁に合併の認証を申請します(宗法第38条第1項)。
合併の認証申請は、合併を行うすべての宗教法人が連名で行い、各宗教法人の所轄庁が異なる場合は、合併後に存続又は新設される宗教法人を管轄する所轄庁に認証の申請を行います(宗法第38条第2項)。

(2)所轄庁による通知書・認証書の交付

まず、所轄庁は、認証の申請を受理した場合は、その受理の日を附記した書面にて申請した宗教法人に通知を行います。その後、所定の要件について審査を行い、認証の有無について決定します。認証した場合は認証書を交付し、認証しなかった場合は、その理由を附記した書面にて通知します。(宗法第39条、第14条)。
なお、所轄庁の通知及び認証書等の交付は、認証を申請した宗教法人のうちの一に対してすれば足りるとされています(宗法第39条第3項)。

7 登記

所轄庁から認証書の交付を受けると、吸収合併では存続する宗教法人の変更登記を行い、新設合併では、設立の登記を行います。合併により消滅する宗教法人は、解散の登記を行います。(宗法第56条)。登記すべき期間は、認証書の交付を受けた日から、主たる事務所においては2週間以内、従たる事務所においては3週間以内に管轄の登記所にて行います(宗法第56条、第59条第1項第2号)。登記が完了したら、登記事項証明書を添えて、その旨を所轄庁に届け出なければなりません(宗法第9条)。

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