無縁墓地とは?無縁改葬手続と事前対策を解説します!

墓地や納骨堂を運営する中で、避けて通れない問題の一つが「無縁墓地」の存在です。縁故者がいなくなり、管理者が改葬(遺骨の引っ越し)手続きを行うケースを指しますが、これは単なる行政手続きにとどまらず、複雑な法的・実務的課題を伴います。

本稿では、「死亡者の縁故者がない墳墓」とされる無縁墓地について、その改葬手続きの具体的な流れから、一般的な改葬との違い、さらには見過ごされがちな民事上の責任と事前対策の重要性まで、多角的に解説します。

単に遺骨を移動させるだけでなく、後に生じうる損害賠償リスクや、墓地使用権・墓石の所有権といった権利関係の解消にどう向き合うべきか。実際に裁判例でも損害賠償責任が認められた事例があることから、適切な手続きと記録が不可欠です。

無縁墓地の問題に直面した際に、寺院や墓地管理者が取るべき対策と注意点を詳しく掘り下げていきます。

無縁墓地とは

無縁墓地とは「死亡者の縁故者がない墳墓」のことをいいます(墓地埋葬法施行規則3条)。
「縁故者」とあるので、死亡者と縁やゆかりのある人と考えると、死亡者の相続人や祭祀承継者よりもやや広い概念と考えられます。そのような縁故者がいなくなった死亡者の墳墓を無縁墓地といいます。

無縁墓地の改葬とは、埋葬者の縁故者がいなくなり、墓地経営者や管理者側で改葬手続を行う場合をいいます。法律上は、「無縁墳墓」(墓埋法施行規則3条参照)といいますが、本稿では、便宜上、無縁墓地と表現させていただきます。では、この無縁墓地はどのような手続きにより改葬することができるでしょうか。

無縁墓地の改葬手続

縁故者が途絶え、管理者が対応に迫られる無縁墓地。その改葬(遺骨の引っ越し)は、一般的な改葬とは異なり、特別な手続きと注意が必要です。ここでは、無縁墓地の改葬を適切に進めるための具体的な手順を解説します。

無縁改葬の主体

一般的な改葬手続は墓地使用者が行いますが、無縁墓地の改葬手続は墓地使用者もいない状況ですので、墓地を経営・管理している宗教法人などが主体となって市区町村長の改葬許可手続を行います。

一般的な改葬手続との違い

無縁改葬の場合、一般的な改葬手続に加えて、次の書類を揃える必要があります(墓地埋葬法施行規則3条)。(一般的な改葬手続についてはコチラをご参照ください)。

①無縁墳墓等の写真及び位置図
②死亡者の本籍及び氏名並びに墓地使用者等、死亡者の縁故者及び無縁墳墓等に関する権利を有する者に対し1年以内に申し出るべき旨を、官報に掲載し、かつ、無縁墳墓等の見やすい場所に設置された立札に1年間掲示して、公告し、その期間中に申出がなかったことを記載した書面
③前号に規定する官報の写し及び立札の写真
④その他市町村長が特に必要と認める書類

以上の書類が必要となります。特徴としては官報への掲載と立札の掲示となります。立札に関してはどの墳墓に関することなのか、縁故者が墓参りに来た時に気が付くように当該墳墓に隣接し見やすい位置に設置することが必要になります。また1年間の掲示が必要になりますので丈夫なものを設置する必要があります。

無縁を改葬する時の注意点

無縁墓地の改葬は、単に行政手続きをクリアすれば良いというわけではありません。特に重要なのは、行政上の許可と民事上の責任が別物であるという認識です。ここでは、無縁墓地の改葬において見落とされがちな法的・実務的な注意点について解説します。

行政手続と民亊上の責任の違い

上記の無縁改葬の手続はあくまで行政上の手続に関することです。すなわち、墓地経営者が市区町村長の改葬許可を得るための手続に必要とされるものです。注意が必要なのは、行政上の改葬許可が出たとしても、本来の墓地使用者との民事上の管理責任は別問題ということです。

墓地使用権や墓石・遺骨の所有権の解消

無縁墓地の改葬は、あくまで遺骨の引っ越しのことについてであり、市区町村長の改葬許可があったとしても、墓地使用者が有する墓地使用権(永代使用権)や墓石・遺骨の所有権は祭祀承継者に残ったままです。お寺側に移るわけではありません。
このことは、改葬許可が出たとしても、祭祀承継者の承諾なしに墓石を撤去して遺骨を合祀した場合に、後に祭祀承継者が現れて損害賠償を請求される可能性があることを意味します。また、合祀すると他の遺骨との区別がつかなくなりますので元に戻せなくなりますのでご注意してください。実際にそのような事例で損害賠償責任を宗教法人に認めた裁判例もあります。無縁改葬する場合は、墓地使用者の墳墓などに対する所有権などの権利関係も解消・整備する必要があります。詳しくは次の事前対策の箇所で述べます。

事前対策

無縁墓地の改葬は、後々のトラブルを避けるために事前の準備が非常に重要です。行政手続きだけでなく、民事上の責任を回避するための多角的な対策が求められます。ここでは、具体的にどのような対策を講じるべきか解説します。

墓地使用者の事前調査

墓地の使用申込の段階で、今後縁故者に該当しそうな方を事前に確認しておきます。特にキーパーソンになる方は要確認です。墓地使用者の本籍地が分かれば相続人を戸籍でたどることもできますが、連絡が取りたいという理由だけでは弁護士でも戸籍調査はできませんし、他の理由があったとしても費用がかかります。少なくとも年に1回はなんらかの方法(会報を送るなど)で所在確認をしておくと良いでしょう(檀信徒との関係維持にも良いことかと思います)。

墓地管理規程の整備

管理料の滞納があった場合の解約手続やその後の処理については墓地管理規程に定めておくことで、権利関係解消の適法な根拠になります。もちろん内容の合理性が求められますが、少なくとも墓地使用権の解除要件と無縁改葬手続・その後の手続きまでの一定の経過期間は定めておくと良いでしょう。

利用状況の確認・記録化

管理規程に則って手続を行ったことを書面で説明できるようにしておきましょう。また、墓地の状況も適宜記録に残し、場合によっては写真を撮っておくなど客観的な証拠を残しておくようにしましょう。

改葬前の調査

無縁とは縁故者がいない状態のことですので、縁故者がいるのは知っているが連絡がとれないだけという状況ではそもそも無縁改葬の要件を満たしていません。本当に縁故者がいないか、どれだけ調査したかを記録に残しておきましょう。手紙を出した日付や訪問時の状況、近隣への聞き取り、その他調査状況を記録化して、墓地管理者として無縁墓地であると合理的な根拠に基づいて判断したことが必要です。またそれを示せるように書面化しておくことお勧めします。また、管理費の滞納などがある場合、損害賠償と相殺できるように滞納記録をきちんと残しておきましょう。

可能であれば遺骨は20年間保管

特に無縁改葬の場合は、埋葬されていた遺骨は合祀することになり、一度、合祀していますと二度と遺骨は戻ってきません。そうすると、どんな適正な手続きを取ったとしても遺族からすると精神的苦痛は残ることになりますので、損害賠償請求された場合のリスクは残ったままになります(もちろんお寺側の言い分もわかります)。損害賠償が請求されても消滅時効(民法724条2号)を援用できるようにしておくとより万全となります。

まとめ

無縁墓地の問題は、墓地や納骨堂を運営する上で避けては通れない重要な課題です。「死亡者の縁故者がない墳墓」を意味する無縁墓地の改葬は、単なる行政手続きに留まらず、民事上の責任や将来的なトラブルのリスクを伴います。

本稿で解説したように、無縁改葬は墓地経営者や管理者が主体となり、官報掲載や立札掲示といった特別な手続きを踏む必要があります。

しかし、行政の許可を得たとしても、元の墓地使用者が持つ墓地使用権や墓石・遺骨の所有権は消滅せず、後に縁故者が現れた際には損害賠償請求につながる可能性があります。

実際に、宗教法人に賠償責任が認められた判例も存在するため、これらのリスクを軽視することはできません。

こうしたトラブルを未然に防ぎ、適法かつ円滑に無縁墓地を処理するためには、事前の対策が不可欠です。墓地使用者の詳細な事前調査、管理料滞納時の解約規定を盛り込んだ墓地管理規程の整備、墓地の利用状況の確認・記録化、そして改葬前の徹底した縁故者調査とその記録化が重要となります。

さらに、可能であれば遺骨を合祀する前に一定期間(例えば20年間)保管することも、将来的なリスクを軽減する有効な手段となり得ます。

無縁墓地の問題は、一度発生すると解決に時間と労力を要するだけでなく、寺院の信頼にも関わるデリケートな側面を持ちます。

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