墓地納骨堂の管理規則(管理規程)は整備されていますでしょうか。またその内容は「かゆいところに手が届く」といえますでしょうか。筆者はこれまで多くの管理規則をみてきましたが、しっかりと作りこんでいるものはほとんどありませんでした。墓地納骨堂は長期間にわたり使用者と関係が続くもので使用者が承継されることも十分にあります。それゆえ、墓地納骨堂の管理規則はトラブル回避に非常な重要な役割を果たします。
目次
1 墓地・納骨堂管理規則で押さえたいポイント
では、実際に墓地等の管理規則を作成する場合、どのような点を意識すればよいでしょうか。お手元に管理規則がある方は、これから述べるポイントに触れられているかもご確認下さい。
(1) 管理者の定め、使用者の資格
墓地や納骨堂も施設であるため、管理者と利用できる方の範囲は最低限定めておく必要があります。管理者については、誰が管理者であるかを定め、墓地等が所在する市町村長に届け出なければなりません(墓埋法12条)。利用者については、檀家に限るのか、宗派が同じであればよいのか、他宗派の方はどうするのかなどです。
(2) 典礼方式の定め
上記(1)とも連動する箇所ですが、納骨者は元檀家であっても祭祀承継者が他宗派の方であった場合、供養の際に、境内地内にあるお墓の前で、他宗派の典礼方式によって供養されると、お寺としては困ったことになります。そこで典礼方式について規則で定めておく必要があります。
(3) 納骨の種類・方法
宗派やお墓の形式によっては、納骨する部位(喉仏のみなど)や遺骨の処理方法が異なります。
また、例えば、納骨するときに、粉骨処理やパウダー加工などをするときは、利用者に十分な事前説明と承諾をとっておかなければ、後々のトラブルの原因となりかねません。
お寺によっては骨壺を指定しているところもあります。骨壺の指定や条件をつけておくことで、利用者が持参した骨壺がお墓の形状にあわない場合にでも、対応できるようにしておくことが望ましいでしょう。
(4) 副葬品に関する定め
ペットの遺骨と一緒にお墓に入りたいと希望する方もおられます。動物に関する考え方は教義によって異なりますし、他の利用者の心情にも影響します。また、骨壺に遺骨以外ものを入れられると、腐敗した場合の処理などに困ります。副葬品に関する定めも決めておきましょう。
(5) 申し込み方法・使用者となる時点
申し込みに要する書類や費用に関する規定を定めます。納骨証明書や改葬許可証など、納骨時に法律上必要となる書類の添付を求め、志納金や冥加金などの費用に関する定めも記載しておきます。また、いつの時点をもって申込希望者から使用者になるかについても定めておくことで、法的地位を明確に、トラブルが生じたときの対応が変わります。また使用者については、住所氏名や埋葬に関する情報などを帳簿にまとめ備えおく必要があります(墓埋法施行規則7条)。
(6) 申請書類
管理規則の中に記載することではありませんが、上記で述べた申請に必要な書類の1つとして、申込書があります。申込書には、申し込みの意思だけでなく、祭祀承継者(予定)の連絡先などの記載欄を作り、いざという時に連絡がとれるようにしておくといいでしょう。
納骨の申し込みを受けた場合、埋葬許可証、改葬許可証又は火葬許可証を受理したあとでなければ、埋葬又は焼骨の埋蔵をさせてはなりません(墓埋法14条)。たまに、この書類を受け取らずに納骨しているお寺さんもいるようですのでご注意してください。
(7) 使用期間
お墓の形態によっては、一定期間経過後に合祀する場合があります。その場合、いつからいつまでの期間を利用できるかについて明確に定めておく必要があります。
また、一時的に遺骨を預かる場合、そのまま引き取りにこないケースもよくあります。中には、お寺に預けた時点で納骨が済んだと勘違いしている方もおられるかもしれません。一時預かりであったとしても口約束だけで預かるのではなく、書面をかわし、期間を定め、遺骨を預かるときに、預かる期間と引き取りに来なかった場合の処理について事前説明を行い、書面による承諾を得たうえで預かることが、後々のトラブル回避につながります。
(8) 費用・管理料・物価の変動
お金に関することは特にトラブルに発展しやすいので、明確に定めておくことが必要です。内容としては、金額だけでなく、支払い時期や支払いの手段(現金持参・振込など)、また支払いにかかる費用負担(振込手数料など)も明記しておくことが望ましいでしょう。また、管理料については、将来の物価変動に備えて、物価変動に連動して変更する可能性があることも明記しておくとよいでしょう。
(9) 地位の承継・相続人の特定
相続人の1人から「住職さん、改葬するからお墓にある父の遺骨を返してください」と言われた場合に、言われたとおりに渡したら、後日の別の相続人から「私は何も聞いていません。なんで勝手に渡したのですか?」とクレームが入るかもしれません。
なぜなら、相続人が複数いても遺骨を管理する祭祀承継者は1人であることが多く、相続人だから遺骨の権利者であるとは限らないからです。
相続人だからという理由で遺骨を渡してしまうと、取り返しのつかない大きな問題になりかねません。それにそもそもその人が本当に戸籍上の相続人であるかどうかも外からだけでは分かりません(本人は養子だと思っていたら戸籍上の手続がなされていなかったケースもあります)。
そこで、誰が祭祀承継者であるかの確認を行う必要があり、そのための書類に関する定めが必要となります。
昔から繋がりのある確実に問題がないと感じる檀家様にあまりに書類、書類といいすぎると関係が悪くなるかもしれません。その場合、「行政書士に言われていまして・・・」とか「顧問弁護士の指導で・・・」など、うまくかわしていただくのが一番よいかと思いますが、すべてを杓子定規に行う必要はなく、状況に応じて、危ないかもと感じるときのための対処法として運用するのも良いかと思います。
(10)契約の解除
管理料の支払いが長期間滞る、祭祀承継者が長年に亘って行方不明になっているなど、このままの状態では、お墓の管理ができなくなってしまう場合などに、解除条項を定めておくと、それを根拠として契約解除をすることができます。
墓地の場合、永代供養と永代使用の区別がついていない方も多くおられますし、無縁墳墓(無縁墓地)となった遺骨を法律の規定に則って改葬したとしても、それはあくまで遺骨の処理の問題であり、永代使用権は解除する必要があります。そのため、解除できる要件は明確に定めておくといいでしょう。
また、合祀墓の場合や遺骨を粉骨処理する場合などは、後に遺骨を返還することができなくなるので、申込者からの解除期限を定めておくとよいでしょう。
(11)契約終了後の処理
契約を解除した場合に、次に問題となるのが、解除後の手続です。墓地の区画を誰がどのようにして返還するのか、お墓の処分はどうするのか、納骨された遺骨をどのようにするのかなどを定めておきます。
またその費用はどのようにするのかもあらかじめ管理規則に定めておくことで、各々の責任と分担を明確にしておきます。
使用者が履行してくれない場合に、お寺で立替払いをしたとしても、利用者負担分を定めておくことで、後々に費用を請求するための基礎にもなります。
また、管理料が支払われないなどの理由で契約を解除してみたものの、残された遺骨を引き取りにこない場合に、その遺骨をどのように処理するのかも問題となります。
契約を解除したあとの処理は、運営している寺院にとっては大きな関心事となります。しっかりと管理規則に定めておきましょう。
(12)参拝時の取り決め
防犯上の理由からか、夜になると門を閉じるお寺も多く見かけます。お墓や納骨堂が境内地にある場合、管理上の観点や近隣住民との関係からも、参拝可能時間を定めておくとよいでしょう。また、参拝時に排出したゴミの処分や防音対策もきちんと定めておくことで、不要なご近所トラブルも防ぐことに役立ちます。このような規定と解除条項を定めておくことで、ルールを守らない利用者のご利用をお断りすることも契約上は可能となります。
(13)個人情報保護規定
お寺には、たくさんの個人情報が集まっています。お寺側も個人情報を遵守することで利用者の安心にも繋がります。個人情報保護を遵守することで、安心して墓地・納骨堂を運営できることにつながります。
(14)定型約款規定
定型約款については、後述しますが、管理規則を定型約款として使用する場合、寺院と使用者との間で、民法の規定に従って、管理規則を定型約款として使用する旨の合意が必要となります。その合意事項を申込書に記載しておく必要があり、管理規則の中にも定めておくとよいでしょう。
(15)書類送達方法
寺院の側から、使用者に連絡や通知を行う場合、使用者の連絡先に書類を送付しても、転居されていて転居先が不明であれば、遺骨は預かっているが連絡をとることができない状態になります。その場合にでも、寺院側の通知が到達できている状態になるように、あらかじめ書類到達の方法も定めておくとよいでしょう。
(16)紛争時の管轄裁判所
管理規則に定めがあったとしても紛争は起こります。遠方に住まわれている方と紛争になった場合に、寺院の希望する裁判所(最寄りの裁判所)で争う旨をあらかじめ規則に定め合意しておくことで、いざという時に遠方の裁判所までいく必要がなくなります。
2 墓地・納骨堂管理規則と定型約款
定型約款とは、不特定多数の方と定型的な内容の契約を締結する場合に利用するもので、生命保険の約款やソフトウェアの利用規約などが典型例です。
実は、墓地や納骨堂(特に事業型の墓地)の管理規則においても、その取引は、不特定多数の方と定型的に行われることが多いため、定型約款の活用が望まれます。このことは、厚生労働省平成12年12月6日生衛発第1764号:「墓地経営・管理の指針等について」の中にも記載されています。
個別の契約と異なり、定型約款を利用するメリットは、契約の条項を変更しようという場合に、契約者全員の同意を得る必要がないという点があげられます。
利用者にとって不利となる内容に変更することや、必要性・相当性がないにもかかわらず契約の目的に反するような内容に変更することは認められませんが、相手方の利益に適合するときは、わざわざ契約者全員の同意を得ることなく条項を変更することができます(民548条の4)。規模が大きくなればなるほど、大多数の人の同意を得ることは容易ではありませんし、多大の費用も掛かります。そこで定型約款を活用するメリットがでてきます。
この定型約款を契約内容とすることができるかについては、従来、民法上は明らかではなかったのですが、2017年の民法改正によって新設されることになり、一定の要件のもと、契約としての拘束力を有することが認められることになりました。
定型約款を活用するにあたり気を付けるべき点が2点あります。
(1) 注意点その1
1つ目の注意点は、定型約款の契約内容とする場合は、一定の要件を満たすことが必要になってくるという点です。詳細については、本記事では割愛しますが、詳しく知りたい方は、民法の第548条の2以下の規定をご参照してみてください。
(2) 注意点その2
2つ目の注意点は、事前説明は怠らないということです。例えば、ソフトウェアの利用規約等でも、本来は利用規約を読んで内容を理解してから同意ボタンをクリックすべきですが、実際のところは、内容を読まずに同意ボタンをクリックする人が多いと思います。だからといって、墓地や納骨堂の管理規則に関する約款についても、ソフトウェアの利用規約の場合と同じように、どうせ読まないだろうと説明せずに申し込みを受けると、あとでトラブルの元になりかねません。事前の説明は怠らないことをお勧めいたします。