宗教法人が境内地などの財産を売買する場合の必要な手続と注意点とは

宗教法人が境内地や境内建物を売却する場合やその他の資産を処分する場合、どのような手続きが必要になるでしょうか。宗教法人が有する資産は信者様などから寄進を受けているケースが多く、そのため資産売却には信者様などへの公告など一定の手続きが必要となってきます。それでは詳しく解説していきます。

1 宗教法人における財産処分の特徴

宗教法人が保有する次に掲げる財産の処分行為等をする場合、①公告と②規則の規定沿って手続きを行う必要があります。まずは、手続きが必要となる財産の種類を確認しましょう。

手続が必要となる財産の種類
① 不動産又は財産目録に掲げる宝物を処分又は担保に供すること。
② 借入(当該会計年度内の収入で償還する一時の借入を除く)又は保証。
③ 主要な境内建物の新築、改築、増築、移築、除却又は著しい模様替え。
④ 境内地の著しい模様替をすること。
⑤ 主要な境内建物、境内地の用途を変更、または、宗教活動以外の目的のために供すること。

以上の財産の処分行為等をする場合は、処分行為等をする少なくとも1か月前に、信者その他の利害関係人に対し、その行為の要旨を示してその旨を公告しなければなりません。また、上記以外の財産であっても、それが規則に定めがある場合には、その処分行為等についても手続が必要となります。

2 財産処分の手続

(1)公告

宗教法人が保有する財産には信者などから寄進されたものが多く含まれています。そこで、保有財産の適正化を図るため、宗教法人が財産を処分する場合、信者や利害関係人に対して寺院保有の財産を処分することを知らせるために公告が必要とされています。公告は財産を処分する1月前までに行う必要があります。

公告の方法は、新聞又は寺院が発行している機関紙、寺院の掲示場での掲示をする、その他適当な方法で行う必要があります(法12条2項)。実際にどの手段で公告するかは、各規則に定めがあります(法12条1項11号)。一般的には「事務所の掲示場に〇日間掲示して行う」と規定していることが多いのではないでしょうか。

公告を行う時期については注意が必要となります。財産処分の場合、法律上は、財産を処分する「1か月前に」と記載されています。この「1か月前に」というのは、1か月前から掲示を開始するという意味ではなく、〇日間の掲示が財産処分をする1月前までに終了していなければならないという意味です。

そして、「〇日間掲示」したといえるには、〇日間の前後に1日ずつ加える必要があります。
なぜなら、民法の規定により、期間の初日は午前零時に始まるとき以外は初日不算入とされており、期間の満了は、その末日の終了する時とされているからです(民法140条、141条)。

初日の零時丁度に公告文を掲示場に掲示し、最終日の24時に剥がすことは手間が掛かります。特に初日の場合、わざわざ零時丁度になるまで、掲示場の前でスタンバイしておくことに意味はないでしょう。
そこで、運用上は、規則に定めた期間「〇日間」に前後2日間を加えた期間を掲示することになります。

例えば、〇日間を「7日間」として、6月13日に掲示したとします。この場合、6月13日から7日間数えるのではなく、1日置いた翌日の6月14日(正確にいうと、6月14日午前零時)から数えて7日間です。さらに掲示の終了も1日加える必要があるので、6月20日までの掲示ではなく6月21日まで(正確にいうと、6月20日24時まで)掲示することになります。つまり、7日間は24時間まるまる掲示をしておく必要があるため、「7日間」と規則に定めている場合は、事実上「9日間」が必要になり、もし規則に「10日間掲示」と定めている場合は事実上「12日間」が必要になります。

この掲示期間が終了するまで(6月21日まで)を、財産処分を行う1か月前にしておく必要があります。
掲示期間が満了すると、1か月の据置期間に入ります。ここも期間の初日は午前零時に始まるとき以外は初日不算入ですが、公告は6月20日の24時に満了していますので、そのまま据置期間は6月21日午前零時から開始します。
月計算の満了は、起算日に相応する前日となっています(民法143条2項)。先程の事例でいうとすなわち、据置期間の起算日は6月21日なので財産処分ができる日は7月20日の24時以降(つまり7月21日から)という計算になります。

≪公告に必要な期間の時系列≫

6月13日   公告開始日(初日不算入)
6月14日   公告開始起算日

【7日間の掲示】

6月20日   公告期間満了日
6月21日   公告の取外し可能日・据置期間の開始

【1か月の据置期間】

7月20日   据置期間満了
7月21日以降 財産処分可能

 

(2)規則上の手続

財産処分をする場合は上記公告のほかに、規則で定めた手続も行う必要があります。規則に定めた内容ですのでどのような手続を行うかは規則の内容によって異なります。
一般的には、責任役員の議決、総代の同意などが必要になり、更に被包括宗教法人の場合は、包括宗教団体の承認が必要になる場合もあります。

注意が必要なのは、被包括宗教法人が財産処分する場合の責任役員の議決要件です。多くの寺院で使われている規則では、財産処分に関する責任役員の議決要件について定めがありません。規則に議決要件に関する規定がない場合、宗教法人法では、「責任役員の定数の過半数」で決すると規定しています(法19条)。

従って、規則に「責任役員全員の議決」という規定がなければ、本来は定数の過半数で足りることになります。つまり責任役員の定数が3人の寺院では、責任役員のうちの1人が反対しても残りの2人が賛成すればよいことになります。

確かに、宗教法人法上ではこれでいいのですが、宗派によっては、包括宗教団体の承認を得るための必要書類として、責任役員「全員」の議決を得た議事録の提出を求められることがあります。

そうすると、万が一、法律上は過半数の2人でいいはずだからと、「責任役員の〇〇さんが1人だけ反対しているけど関係なく財産処分できる」と考えて、賛成者2人の責任役員議事録を作成してしまうと、包括宗教団体の承認要件を満たさず、結局は財産処分ができなくなることがあります。

財産処分を行うには、売るにも買うにも取引を行う相手方が存在します。内部的手続の瑕疵により相手方との契約が破棄になると、場合によっては相手方から損害賠償を請求される可能性もあります。そのような事態を避けるために、特に被包括宗教法人においては、宗規などを事前に確認して責任役員の議決要件や承認に要する期間などあらかじめ確認しておくことをお勧めします。
事前確認を行うことで、手続上の二度手間も省けます。

(3)利益相反取引

宗教法人の財産処分について、代表役員との利益が相反する場合は、仮の代表役員を選任しなければなりません。例えば、宗教法人の土地を代表役員が買い取る場合などが考えられます。
また、責任役員についても、財産処分に関し特別の利害関係が生じる場合は、その責任役員は議決権を有しないこととなり、これにより定数が足りなくなる場合は、仮の責任役員を選任しなければなりません(法21条)。

 

(4)手続を不要とする例外規定

① 緊急の必要に基づく処分、又は軽微なものである場合
財産処分のうち、主要な境内建物の新築等(法23条1項3号)、境内地の著しい模様替え(同項4号)、用途変更等(同項5号)については、緊急の必要がある場合や軽微なものである場合には、財産処分に関する公告は不要とされています。
例えば、災害等で庫裡が倒壊しそうな場合は急いで除却しなければならないため一月間の公告など猶予はなく、また、全面改築ではなく一部を修繕する程度の軽微な改築であれば公告は不要となります。

② 一時の期間に係るものである場合
上記に加えて、用途変更等(同項5号)の場合は、一時の期間に係るものであれば同じく財産処分に必要な手続は不要となります。例えば、近隣の電柱工事のために、工事用車両の置き場として境内地の一部を一時的に提供する場合などが想定できます。

③ 手続が不要な場合の処分方法
上記に述べた、2つの例外規定以外にも、法23条1項各号に記載のない財産の処分については、公告などの手続は不要です。しかし、法律上は必要な手続が不要であっても、心の問題は別次元です。
寺院がその財産を処分する場合、総代などに事前相談なしに行うと信頼関係に亀裂が生じ、後々紛争に発展する可能性もあります。
なぜなら、責任役員や総代に宗教法人法の規定や規則の内容を把握している人はほとんどおらず、そのため、本来、法律上は手続を要しない場合であっても、「あの住職は自分らに何の相談もなくいつも好き勝手やっている」と思われてしまうことがあるからです。
一度、不信感が生れるとなかなか払拭できません。これは、寺院にとって好ましくないことです。
緊急の場合はやむをえませんが、その場合でも、事後報告や事後承諾、場合によっては、責任役員の議決をとり議事録を作成する、掲示場や機関紙にて檀信徒や利害関係人に対して周知をしていく。このような配慮が寺院運営上好ましいでしょう。
また、何を持って「緊急」、「軽微」、「一時」というのか。その判断基準は明確ではありません。個々のケースにおいて判断に迷ったときは、所轄庁や包括宗教団体にお問合せをしてください。

(5)境内地など不動産を売買する場合の注意点

① 手続上の注意点

寺院が所有する不動産を第三者に売却する場合、一般的な不動産の取引と異なる手続になるので注意が必要です。
一般的な不動産取引では、まず、買主希望者が不動産を購入する意思を示せば、売主との間で売買契約を締結します。そこから買主側で購入資金の融資を銀行等に本申請して審査が通れば決済(お金を払う)に移ります。

一方、売主側は特に何もしません。状況に応じて、担保の消滅とか境界の確定とか登記名義の変更とかすべきことがあるケースもありますが、基本的には、買主側の融資審査の結果を待つだけのことが多いです。
しかし、寺院が売主の場合、買主希望者が決まってから、責任役員の議決、宗派代表役員の承認、公告などしなければ、財産処分できないので、手間と日数がかかります。
このことを理解せずに、不動産売買契約を締結し、決済日を買主側の融資の都合に合わせて予定すると、決済予定日までに不動産を引き渡せる状態にしておかなければなりません。つまり、規則上の手続と公告を済ましておく必要があります。
必要な手続を終わらせておかないと、決済予定日に買主は約束どおりにお金を用意したけれど、売る側(寺院)は不動産を引き渡すことができません。これでは、寺院側(売主側)の債務不履行となり、損害賠償を請求される可能性が生じます。
宗派によっては、代表役員が承認するか否かの会議を月一度にするなど決めている場合があります。この場合、申請日によっては、2か月近く承認待ちをしなければなりません。それだけでなく、公告手続も行う必要があります。
不動産を売却するときは、これらのスケジュールをしっかりと理解して契約書に特約を入れるなどの工夫をしておくことが必要となります。

② 売買価格

不動産の売買価格は相場を踏まえて当事者の合意によって決めます。売主側としては、売却で得た金額はいくらかをだいたい計算して合意に及んでいるケースがほとんどでしょう。売却に要する費用、税金などは誰でも計算します。残ったお金を本堂の修繕費に充当しようと考える方も多いかと思います。
気を付けて頂きたいのは、宗派によっては、冥加金などの名目で、売買価格の数パーセントを包括宗教団体に納めなければならない場合があることです。何故なら、これによって手元に残るお金が変わるので、売却目的が達成できない可能性があります。
これも、被包括宗教団体特有の問題ですので、ご自身が属する宗派の場合にどの程度の費用がかかるのかを、事前にしっかりと確認しておきましょう。このような確認が、今後の資金計画に繋がります。

3 手続違反の効果

財産の処分等に関し、宗教法人法23条で要求されている必要な手続きを怠った場合、処分した財産の種類により無効となる場合があります。

(1)処分行為等が無効となる場合

宗教法人法では、「宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物」に関する処分行為等について、法23条の手続をしなかった場合は無効としています(法24条)。

無効となる財産は限定されています。宗教法人が保有する不動産であれば、それが宗教活動とは関係なく保有している遊休地であったとしても、処分行為等をするときは公告手続の対象となりますが(法23条1号)、処分行為等が無効とされるのは、「境内地や境内建物である不動産」とされています。また動産についても「財産目録に掲げる宝物」と限定されています。

これらは、宗教活動を行ううえで特に重要な財産であるため、信者や利害関係人に大きな影響が生じることから無効とされています。

ただし、無効にしてしまうと、取引の相手方となった買主や買主からの転得者等が不測の損害を受ける可能性がでてくるので第三者保護を図る必要があります。

例えば、境内地を購入して自分の土地になったので、新しい家を建てたら「無効だから返せ」といわれたらいかがでしょうか。せっかく家を建てたのにすぐ壊して更地にして返還となると莫大の損害が生じます。自分は何も悪くなくてもあとから無効になることがあるなら、怖くて不動産なんて買えません。

そこで、こういった不安をなくし、安心して不動産取引を行えるように(これを「取引の安全」といいます)、「善意の相手方又は第三者」に対しては、その無効を主張できないとされています。
ここでいう「善意」とは、良い人という意味ではなく、「知らなかった」という意味です。何について「善意」なのかというと、処分行為等をするためには手続が必要でありそれを怠っていたことについて善意(知らなかった)であることを意味します(反対に、「知っている」ことを「悪意」といいます)。

つまり、善意の相手方(買主)や第三者(転得者)については、取引の安全を図る見地から、無効にすることはやめましょう、という例外規定が設けられています。その結果、手続を怠った処分行為であったとしても、売った物(境内地、境内建物や宝物)を返してくださいとはいえなくなります。

取引の安全は、何も悪くない人が不測の損害を受けないようにすることが目的なので、もともと取引が無効になることが分かっていた人まで保護する必要はありません。そのため、手続の不備について悪意(知っていた)である人や悪意と同視できるような著しい不注意(重過失)のある人は原則どおり無効になります。

(2)処分行為等が無効とならない場合

財産処分の手続きを怠った場合でも、上記(1)で対象となった財産以外の財産の処分行為等については無効とならず有効です。しかし、手続違反は、処分行為等が有効であるか無効であるかに関係なく、10万円以下の過料という罰則規定があります(法88条3号)。
また、代表役員及び責任役員は、法令、規則を遵守し、寺院の業務及び事業の適切な運営をはかる義務があります。これらの義務に違反し、寺院に損害が生じた場合、損害賠償を請求される可能性があります。
さらに、民事的な責任だけでなく、背任罪(刑法247条)など刑法上の責任追及もされる可能性もありますので、財産の処分行為等を行う際は、適正な手続に則って処理することを心がけてください。

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