宗教法人が課税される収益事業と忘れてはいけない手続きとは

宗教法人も収益事業を行うことができます(宗教法人法6条2項)。「宗教法人には、税金がかからないと丸儲けじゃないか」と思われる方もいるかもしれませんが、宗教法人も収益事業を行う場合は、その収益事業については課税されますので税金を納める必要があります。

では、何をすれば収益事業となるか、それと宗教法人が収益事業を行う時にやるべき手続きについて見ていきましょう。

宗教法人が収益事業を行う前にやるべきこと

近年、地域貢献や収入源の多様化を目的に、収益事業を行う宗教法人が増えています。しかし、宗教法人が収益事業を始めるには、通常の企業とは異なる特別な手続きと注意が必要です。適切な手順を踏まずに事業を開始すると、思わぬ法的・税務上のリスクに直面する可能性があります。

規則の確認

ご自坊の規則を確認してみてください。規則に収益事業を行う旨の記載がなければ規則変更が必要です。

規則変更はするときは、何の事業をするのかを具体的に記載する必要があります。不動産業を行うのか、旅館業を行うのかです。寺カフェをしたければ飲食業を行う旨の記載まで必要です。単に「収益事業」だけでは足りません。

なぜ、規則に記載する必要があるのか。それは、お寺は「法人」だからです。一個人である「人」とは異なり、「法」律が「人」として活動(権利義務の主体となる)することを認められたのが「法人」です。

そのため、法律は法人にどこまで活動することを認めるのかを決める必要があります。そのどこまで活動するのかを決めるのが、規則の中の「事業目的」となります。つまり、事業目的の範囲内でその収益事業を行うことが認められます。

従って、事業目的の中に収益事業に関する記載がないと、法律はそのお寺に収益事業することを認めていないということになります。

ここからが重要です。法律が認めていないのに、収益事業を行ったらどうなるでしょうか。法人の目的外の行為を行ったとして「無効」になります。無効ということは、お寺の事業ではなく、住職が個人で行った事業と扱われます。

その結果、仮に飲食業を営んでいて食中毒患者が出て損害賠償を請求された場合、お寺ではなく住職の個人資産の中から損賠を賠償する必要がでてきます。もちろん、お寺のお金から賠償金を支払うと、檀信徒「お金を使い込んだ」と責任追及される可能性もありますのでご注意ください。

税務署等への届出

収益事業開始の届出を所轄の税務署に提出しなければなりません。届出の期間は、収益事業を開始した日以後2か月以内です(法人税法150条、法人税法施行規則65条)。その他にも、都道府県と市への届出も必要になります。各自治体によって取扱いが異なりますので、各々ご確認ください。

会計区分の区分け

収益事業を行う宗教法人であっても、収益事業以外の宗教法人としての収入に関しては、従来どおり非課税です。そこで、非収益事業と収益事業の収支を区分けして会計帳簿を付ける必要があります。

収益事業とは

収益事業とは、販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて行われるものをいいます(法人税法2条13号)。収益事業として34種類の業種があり、これらの行為を事業として行う場合には、宗教法人も課税対象となります。

以下が34種類の業種の表になります。

物品販売業 不動産販売業 金銭貸付業
物品貸付業 不動産貸付業 製造業
通信業、放送業 運送業、運送取扱業 倉庫業
請負業 印刷業 出版業
写真業 席貸業 旅館業
料理店業その他飲食業 周旋業 代理業
仲立業 問屋業 鉱業
土石採取業 浴場業 理容業
美容業 興行業 遊技所業
遊覧所業 医療保健業 技芸教授業
駐車場業 信用保証業 無体財産権の提供業
労働者派遣業

宗教法人がよく行っている収益事業

宗教法人が社会貢献や運営資金確保のために行う収益事業は多岐にわたりますが、税法上の取り扱いは事業内容によって異なります。ここでは、宗教法人がよく行っている収益事業と、その税務上のポイントを具体的に解説します。

お守りなど物品の販売

物品販売は収益事業に該当します(法人税法施行令5条1項1号) 。しかし、お守り、お札、おみくじ等は、実質は喜捨金(寄附金)として、物品販売業には該当しません。

ただし、宗教法人以外の者が、線香、ろうそく、供花等を参詣人等に販売している場合のその販売は、物品販売業に該当することとされています(法人税基本通達15-1-10)。

墳墓地の貸付

宗教法人が行う墳墓地の貸付は収益事業に該当しません(法人税法施行令5条1項5号二)。この貸付には、いわゆる永代使用料を徴して行う墳墓地の貸付も含まれます(法人税基本通達15-1-18)。

ただし、土地を買収して造成したうえで行う墳墓地の貸付は、単に不動産の活用法が墳墓であり不動産の競業者との関係で収益事業にあたるとい判断されたケースもありますのでご注意ください。

納骨堂の貸付

納骨堂については、上記の墳墓地の貸付に準ずるものと考えられます。ただし、その設置した納骨堂が「専ら宗教法人の用に供して」いるかどうかが課税非課税の判断の分かれ目となります。実際に納骨堂に固定資産税が課されたケースもあります。

課税と判断されたケースは、利用者の宗旨宗派を不問とし、他宗の僧侶が施設内にて他宗の教義に則った法要を行っており又その割合が全体からみてごく一部とはいえず施設利用料も徴収していたようです。

料金体系が整っていると喜捨としての性質が認められるかも問題となります。このような点を総合的に判断して課税非課税の有無を判断していきます。

なお、管理料に関しては、納骨堂施設のメンテナンス・管理業と認められる場合は、管理業務という対価性のある請負業に該当し収益事業になります。

境内地等の席貸し

宗教法人が有する施設を不特定又は多数の者の娯楽、遊興又は慰安の用に供する席貸しは、席貸業として収益事業に該当します(法人税法施行令5条1項14号イ)。

「不特定又は多数の者に対する娯楽、遊興又は慰安のため」の席貸しかどうかは、その席貸しの相手方、席貸しの目的、相手先における利用状況などに照らして判断することになります(『法人税基本通達逐条解説九訂版』 佐藤友一郎編著 2019年 1427頁 税務研究会出版局)。

宗教法人の施設で行われる葬儀

宗教法人内で行われる葬儀については、当該宗教法人の住職等が出仕する場合、その葬儀は当該宗教法人の主たる目的とする業務に関連した席貸業であると考えられます。その場合、その利用の対価の額が実費の範囲を超えないものは、収益事業に該当しないと考えられます(法人税法施行令5条1項14号ロ(4)。

宿泊施設の経営

旅館業は収益事業に該当します(法人税法施行令5条1項15号)。宗教法人が、その所有する宿泊施設において宿泊料を受け取り宿泊させる行為は、収益事業に該当します。

しかし、宗教法人が所有する、宗教活動に関連して使用する共同宿泊施設において、すべての利用者につき1泊1,000円(食事付きの場合は2食付きで1,500円)以下の宿泊料を受け取る行為は、収益事業に該当しないとされています(法人税基本通達15-1-42)。

飲食の提供

飲食店業は収益事業に該当します(法人税法施行令5条1項16号)。この飲食店業には、仕出しを受けて飲食物を提供するものも含まれます(法人税基本通達15-1-43)。

紹介手数料

墓石販売業者に墳墓地を貸付けた人を紹介し、紹介手数料を受け取る行為は周旋業に該当し、収益事業となります(法人税法施行令5条1項17号)。

善興行

収益事業である興行業には、宗教法人が自らは興行主とはならないで、他の興行主等のために映画、演劇、演芸、舞踊、舞踏、音楽、スポーツ、見せ物等の興行を行う事業及び興行の媒介又は取次ぎを行う事業が含まれます(法人税基本通達15-1-52)。

しかし、催物に掛かる純益の金額の全額が教育(社会教育を含む)、社会福祉等のために支出されるもので、かつ、当該催物に参加し又は関係するものが何らの報酬も受けない、いわゆる慈善興行で、当該興行に該当するものであることにつき所轄税務署長の確認を受けたものは、収益事業に該当しません(法人税基本通達15-1-53)。

所蔵品等の展示

宗教法人が、常設の資料館、宝物館等において、その所蔵品(保管の委託を受けたものを含む)を観覧させる行為は、収益事業に該当しません(法人税基本通達15-1-52注)。

茶道、生花等の教授

宗教法人が行う、着物着付け、料理、茶道、生花、舞踊、絵画、書道などを教授する事業は、収益事業に該当します。学校教育の補習のための学力の教授も同様です(法人税法施行令5条1項30号)。

駐車場の貸付け

駐車場業は収益事業に該当します(法人税法施行令5条1項31号)。ここでいう駐車場業には、時間決めなどで不特定又は多数の者に随時駐車させるもののほか、月極などで相当期間にわたり継続して同一人に駐車場所を提供する事業が含まれます。

また、駐車場業には駐車場所としての土地の貸付が含まれるため(法人税基本通達15-1-68)、個々の自動車ごとに駐車させる場合に限らず、駐車場に適する土地を駐車場所として一括して貸し付けるものも含まれます(「法人税基本通達逐条解説九訂版」 佐藤友一郎編著 2019年 1469頁 税務研究会出版局)。

住宅用地の貸付

主として住宅の用に供される土地の貸付業で、その貸付の対価の額が低廉である場合は、その貸付は、収益事業に該当しません(法人税法施行令5条1項5号へ)。

低廉な貸付であることを満たす条件として、その貸付期間に係る収入金額の合計額が、その貸付けに係る土地の固定資産税及び都市計画税の3倍以下であることとされています(法人税法施行規則4条)。

その収入金額には、契約の締結、更新又は更改に伴って収受する権利金その他の一時金は含めません。また、固定資産税が減免されている場合は、減免前の税額によることとされています(法人税基本通達15-1-21)。

結婚式場の経営

宗教法人が神前結婚、仏前結婚等の挙式を行う行為で本来の宗教活動の一部と認められるものは、収益事業に該当しません。

挙式後の披露宴における飲食物の提供、挙式のための衣装その他の物品の貸付、記念写真の撮影及びこれらの行為のあっせん並びにこれらの用に供するための不動産貸付及び席貸しの事業は、収益事業に該当します(法人税基本通達15-1-72)。

まとめ

宗教法人の代表者は、法人の代表者という意味では株式会社の社長と同じ立場にあります。ただ、宗教法人の場合は、宗教活動に関しては法人税がかからないので会計というものに触れる機会が少ないのが現状です。

しかし、収益活動を行う以上、その収益活動に関する収益については株式会社の営利活動と同じように会計帳簿をつけ、税金を納める必要があります。意外と忘れがちなのは規則の記載です。

株式会社の場合はそもそも営利事業を行う予定なので定款に事業内容の記載がありますが、宗教法人の場合は収益事業を行うことを本来想定してません。

宗教法人が収益事業を行う場合は、規則の変更が必要になること、そして税務署や自治体への届出が必要になることは必ず押さえておきましょう。

規則変更や収益事業に関するご質問があれば、お気軽に弊所までお問合せください。

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