「死後事務委任契約」という言葉を聞いたことはありますでしょうか。死後事務委任契約とは、亡くなったあと(死後)の事務的な手続きを第三者にお願い(委任契約)することです。
死後の事務って何かというと、例えば、葬儀、納骨、埋葬、供養や施設の退去手続きや行政官庁などへの届出といった諸手続きです。これらの事務は、従来は配偶者や子どもが担ってきました。しかし、高齢化や少子化により、これらの諸手続きを行う方が少なくなってきています。
そこで、死後の事務手続きを第三者に任せる必要が出てきたことから、死後事務委任契約を結ぶ方が増えてきています。
寺院に関わりが大きい死後事務
「ご住職さん、私が亡くなったらお寺で葬儀・供養をしてください」。檀家さんから、このようなお願いをされたことはありませんか。「はい、わかりました」と、口約束のみで葬儀・供養等をされた方もおられると思います。
実は、口約束だけで葬儀などを行うと、あとで相続人との間で、トラブルに発展する可能性があります。亡くなったあとの葬儀をお願いすることは、死後に関する事務手続きとして、民法の(準)委任契約(民法656条・643条)に該当します。
委任契約は、口約束だけでも成立しますが、亡くなったあとのことなので、本人に、「本当に口約束でお願いしたんだよ」と言ってもらうことができません。そこで、死後の事務に関する依頼(委任)を受ける場合は、きちんと契約書にしておくことが望ましいといえます
なぜ、書面にしておくことが望ましいかというと、書面にしておくことで、トラブルが起きた場合に、亡くなられた檀家さんから依頼された事実を証明することができるからです。
では、どのようなトラブルに巻き込まれる可能性があるのでしょうか。例えば、葬儀費用に関するトラブルです。お寺で葬儀した場合の費用はいくらぐらいでしょうか。仮に、お願いされた檀家さんの意向どおりに執り行って200万円かかったとしましょう。一方で、相続人がお寺とは全く縁がなくて、葬儀にかかる費用の相場も知らなかった人であった場合、インターネットや雑誌で葬儀費用を調べてみます。そうすると安い価格設定の広告が目に入り、それを見ると、安いプランで「15万円」、高くても「50万円」というような数字が出てきます。
葬儀費用の相場を知っている人ならともかく、知らない人がこれを見たらどう思うでしょうか。もしかしたら、お寺での葬儀費用は、「高すぎる」と思うかもしれません。そうすると、「なんでそんなに高いんだ、お金を返せ」というクレームに発展する可能性があります。
また、お金の問題だけでなく、連絡の取れなかった相続人が突如現れ、その相続人が他宗派の信者で、「私の宗派での典礼方式にて祀るつもりだったのに、なんてことをしてくれたんだ」というトラブルも想定できます。
お寺側とすれば、「あなたの親からお願いされたから、そのとおりに執り行ったんだ」という言い分がもちろんありますが、「お願いされた証拠は?」と聞かれると、それが口約束であれば、証明することは難しいでしょう。
死後事務委任契約は公正証書で作成しましょう。
そこで、葬儀の依頼を受けたときは、書面化しておくことをお勧めします。また、書面は公正証書にて作成しておくとよいでしょう。何故、公正証書かというと、自分たちで作った死後事務委任契約書も有効ですが、自分たちで作ったものだと、「住職がうちの親をだまして書かせたんだ」という、いわれのない指摘を受けかねないからです。公証人という公正な第三者の元で作成することで、お亡くなりになられた依頼者が生前に真摯な意思に基づき作成した書面であるという推定が高まります。そのような理由から、死後事務委任契約は、公正証書で作成しておくことをお勧めいたします。
まとめ
この死後事務委任契約は、お寺がトラブルに巻き込まれることを回避する目的と、亡くなられた方の手続に関する意思を実現するためのものです。遺言書を検討するときは、死後事務についても併せて検討していただくとよいでしょう。
他にも、死後事務委任契約を作成するときは、遺言書との整合や、受任者の問題など、気を付けていただきたいポイントがありますので、作成されるときは、宗教法人の実情と死後事務委任契約に詳しい当事務所までお問い合わせください。