目次
1 宗教法人の規則変更とは
宗教法人の規則は寺院運営の基盤となるものですが、寺院運営も時代に応じて変化が生じてくるため、運営実態と規則内容がズレてくる場合があります。運営実態に合わせた規則にするため、設立時に作成した規則は後に変更することができます。これを宗教法人の規則変更といいます。宗教法人の規則を変更する手続きは、まずは現行の規則に定められた手続きに従い、被包括団体であれば包括団体の承認を経て、都道府県知事の認証を受け、登記事項に変更があれば変更登記を行い所轄庁に届け出することまでする必要があります。
お寺の規則を見てみると昭和27年~28年頃に作成された規則をそのまま使用しているケースもまだまだ多く、旧態依然した規則を見直したいと希望する寺院からの相談が多く寄せられています。最近では、包括団体の方から末寺に規則変更を促す文面を出すなど、宗教法人業界として規則の見直しを行う事例もでてきています。また、住職が交代したとき、責任役員や総代などの定数を見直すとき、収益事業を開始する場合、宗派を離脱して単立化する場合などで規則変更を行う方からの相談が多いです。税務署から規則の変更を促されたという事例あります。
実は、規則の内容は、宗教法人が何かトラブル起きたときに裁判所の審査の判断基準に使われることがあります。たとえば、責任役員の選任の手続き上の問題がないかなどは、規則にどのような手続きが記載しているのかで裁判所の判断は分かれます。そのため、宗教法人規則は運営実態と齟齬がないようにしておく必要があり、もし齟齬が生じているときは規則の変更を行いましょう。
変更は何回でも可能です。この点、株式会社が定款を変更するときと同じです。しかし、株式会社が定款を変更するときには、株主総会の議決といった内部的手続で足りますが、先ほど述べたように、規則を変更する場合は、責任役員や総代の議決といった内部的な手続きだけでは足りず、包括宗教団体による承認や所轄庁の承認、登記申請が必要になってきます。どのような手続きが必要かを、このあと詳しく解説していきます。なお、規則変更が可能といっても宗教法人の本質を失する内容での変更はできません。これを認めてしまうと宗教法人を悪用することが可能となってしまうからです。
では、詳しく解説していきます。
規則を変更するには、①寺院内部での手続、②包括宗教団体の承認手続(被包括宗教団体のみ)、③所轄庁での認証手続、④法務局での登記(変更箇所による)が必要になります。
規則を変更するには、まず、現在の規則を確認してください。寺院によって異なりますが、「責任役員の議決」、「総代の同意」「門徒総代に諮問」といった文言が入っていると思います。その手続を経なければ所轄庁は規則変更申請を受け付けてくれません。ですので、まずは規則の確認が必要です。また、当然ですが、現在の規則がないと、どこをどう変えるかが不明ですので、まずは、現在の規則の確認が必要になります。
たまに、規則を紛失していて分からないという相談を受けます。その場合は所轄庁に規則の再交付申請をすれば大丈夫です。規則の作成や変更には所轄庁の認証が必要になっておりますので、規則は所轄庁にも保管されています。ただ、再交付申請は登記簿に記載された代表役員からの申請でないと受け付けない都道府県もありますので、後任住職が代表役員への就任登記をする前に再交付をお考えの場合は当事務所にご相談ください。
規則の変更手続は次の3つに分類できます。3つの違いは、規則の変更に伴って被包括関係に設定・廃止が生じるか否かです。
① 被包括関係に変更がない箇所での規則変更(法26条1項)
② 被包括関係の設定に関する規則変更(法26条2項・3項)
③ 被包括関係の廃止に関する規則変更(法26条2項・3項)
「被包括関係の設定・廃止」というのは、単立の宗教団体が、どこかの包括宗教団体との間で被包括関係を新たに設定する場合、又は、包括宗教団体と被包括宗教団体の被包括関係を廃止する場合をいいます。
例えば、〇〇宗から抜けて単立の宗教団体になる場合や、単立の宗教団体から〇〇宗の被包括宗教団体になる場合をいいます。
この場合、〇〇宗からしてみると、知らぬ間に被包括関係が設定されていたり廃止されていたりしては困ります。また、信者達にしてみても、〇〇教の教えを信仰しているのに、知らぬ間に違う経典の信仰に変わってしまうと困ります。
そのため、現在の包括宗教団体や、寺院の信者達に対しての特別の手続が必要になってきます。
2 寺院内部での手続について
以下、規則変更手続について解説していきますが、便宜上、文化庁が出している『宗教法人の管理運営の手引 第一集 宗教法人の規則』(二訂版)ぎょうせい に沿って解説していきます。実際には、ご自坊の規則の条項をご確認しながら、手続を行ってください。
【資料2-4 参考規則】
(規則の変更)
〇〇条 この規則を変更しようとするときは、総代会(宗会)及び責任役員会において各々定数の3分の2以上の議決を経た上、(〇〇宗[教]の代表役員の承認及び)所轄庁の認証を受けなければならない。
上記参考規則によると、「総代会(宗会)及び責任役員会において各々定数の3分の2以上の議決」とありますので、総代会(宗会)と責任役員会を開催して、それぞれ定数の3分の2以上の議決を得る必要があります。具体的には、それぞれの議事録を作成することになります。被包括宗教団体の場合は、包括宗教団体に、各書式が用意されているケースがほとんどでしょう。地域の支所などにお問い合せください。
議決を得るために必要となるのは、まず、現行の規則をどのように変更するのかを示す必要があります。新旧対照表のように整理して、どこを削除して、その部分をどのように変更したのかを分かり易くするとよいでしょう。
新旧対照表ができれば、規則を変更する理由書も附して、総代会(宗会)と責任役員会にて議事を諮ります。
気を付けていただきたいのが、議事録に押印する印鑑です。被包括宗教団体の場合、包括宗教団体代表役員の承認が必要になるわけですが、包括宗教団体によっては、この議事録に押印する印鑑の種類を定めているケースがあります。そのため、二度手間にならないように、事前に、包括宗教団体に問い合わせて確認しておくことをお勧めします。
寺院内部での手続が完了すれば、被包括宗教団体の場合は、包括宗教団体の承認手続に移ってください。単立の宗教法人の場合は、所轄庁への認証手続に移ってください。
3 包括宗教団体の承認手続(被包括宗教団体のみ)
寺院内部での手続が完了すれば、被包括宗教団体の場合は、包括宗教団体の代表役員の承認手続に移ります。
申請書の書式は、包括宗教団体にて用意している場合がありますので、議事録同様に支所などから書式をお取り寄せしてください。
被包括宗教団体の場合に気を付けて頂きたいのは、規則の変更は無制限にはできないという点です。各宗派(包括宗教団体)には、宗の規則や規律を定めたものがあります。宗派に属する以上、その宗規等に反する規則の変更はできないということになります。
例えば、責任役員に世俗の方をいれようと考えても、宗規等でそれを認めていなければ、被包括宗教団体の規則で責任役員に世俗の方が就任できるように変更することはできない(包括宗教団体の承認がおりないため)ことになります。
したがって、被包括宗教団体の場合は、事前に、宗規等を確認するか、変更しようとする内容で包括宗教団体の承認がおりるかを問い合わせするなど確認してください。また、包括宗教団体によって用意する書類が異なりますので、規則変更を行うときは、まずは包括宗教団体にお問い合せください。
4 所轄庁での認証手続
寺院内部、包括宗教団体の承認手続(被包括宗教団体のみ)が完了した場合は、いよいよ所轄庁での認証手続に移ります。所轄庁に提出する書類は、規則の変更箇所によって必要書類が異なってきます。こちらも事前確認を行ってください。認証書が交付されると、当該規則の変更の効力が生じますが(法30条)、登記事項に変更がある場合は、登記をしなければ第三者に主張することができません。また、包括宗教団体によっては、認証書の写しの提出を求めるところがあります。
必要書類の例を以下に記載します。
※あくまで一例であり、必要書類は各所轄庁にご確認ください。
【基本となる必要書類】
宗教法人規則変更認証申請書
変更しようとする事項を示す書類など(規則の新旧対照表や新規則全文)
規則変更理由書
責任役員会議事録
責任役員であることの証明書
現行規則全文
法人の印鑑証明書(発効後3か月以内)
寺院によって必要となる書類
他の機関の同意書等(規則等に総代会や総会等の同意等が必要な場合)
包括宗教団体の承認書(被包括宗教法人の場合のみ)
主たる事務所を移転した場合に必要となる書類
境内地・境内建物明細書
土地・建物の全部事項証明書
境内地図面・配置図・平面図
住居番号通知書
移転先の位置図・周辺図
包括・被包括関係の設定や廃止をする場合に必要となる書類
被包括関係設定・廃止の公告証明書
被包括関係設定・廃止の公告文
被包括関係設定の承諾書
被包括関係廃止の通知書
公益事業又はそれ以外の事業を行う場合に必要となる書類
事業説明書
許可書(法令などに基づく許認可が必要な場合)
施設などの図面
予算書や決算書類などの会計説明書
運営規定
公告証明書(財産処分、境内地・境内建物の用途変更を伴う場合など)
5 法務局での登記
規則を変更した場合、変更箇所が登記事項に関するものであれば、2週間以内に、主たる事務所の所在地において、変更の登記をしなければなりません(法53条)。規則変更の効力は、所轄庁の認証書の交付によって生じます(法30条)。しかし、第三者に変更後の規則を主張するためには登記が必要になります(法8条)。登記が完了すれば、登記事項証明書を添えて、所轄庁に届出をしなければなりません。また、包括宗教団体によっては、登記完了後に登記事項証明書の提出を求めるところがあります。
登記事項と規則記載事項が重なる箇所は次のとおりです。この点について、規則変更した場合は登記も必要になってきます。
【登記事項と規則記載事項が重なる箇所】
① 目的(事業を行う場合はその種類も含む)
② 名称
③ 包括宗教団体がある場合はその名称及び宗教法人非宗教法人の別
④ 基本財産がある場合はその総額
⑤ 境内建物・境内地である不動産又は財産目録記載に掲げる宝物に係る宗教法人法23条1項に掲げる行為に関する事項
⑥ 解散の事由を定めている場合はその事項
⑦ 公告の方法に関する事項
上記①から⑦に該当する箇所を少しでも変更すると登記変更が必要となります。登記申請が別途必要になれば手間がずいぶんと増えてしまいます。そのため、必要がなければ、登記に関わる部分は規則変更しないという考えも必要になります。
6 収益事業を行う場合の届出
宗教法人も収益事業を行うことができます(法6条2項)。宗教法人であっても収益事業によって得た所得は課税対象となります。そのため、収益事業開始の届出を所轄の税務署に提出しなければなりません。届出の期間は、収益事業を開始した日以後2か月以内です(法人税法150条、法人税法施行規則65条)。
【添付資料】
・収益事業開始の日又は国内源泉所得のうち収益事業から生ずるものを有することとなった時における収益事業についての貸借対照表
・規則の写し
その他にも、都道府県と市への届出も必要になります。各自治体によって取扱いが異なりますので、各々ご確認ください。
7 規則変更の手続の特例
(1) 被包括関係の設定又は廃止に係る規則の変更
被包括宗教法人における規則では、包括宗教団体の名称と宗教法人非宗教法人の別(宗教法人格を有するか否か)を定める必要があります(法12第1項4号)。そのため、新たに被包括関係を設定したり、これまでの被包括関係を廃止したりする場合、規則の変更が必要となります。
ただ、被包括関係の設定又は廃止に係る規則変更の手続については、寺院・信者にとって重要な意味合いがあります。そこで、先に述べた通常の規則変更の手続に加えて、次に述べる内部手続が必要となります。
(ア) 新たに被包括関係を設定するとき
新たに被包括関係を設定するときには、規則で定めた手続に加えて、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案の要旨を示して、その旨を公告しなければなりません。
なお、この公告は少なくとも所轄庁へ認証申請をする2か月前までに完了していることが必要となります(法26条2項)。
また、被包括関係を設定しようとする包括宗教団体の承認を受けることが必要です(法26条3項)。
所轄庁への規則変更認証申請手続においては、上記の公告をしたこと及び包括宗教団体の承認を受けたことを証する書類の添付が必要となります(法27条2号)。
(イ) 被包括関係を廃止するとき
被包括関係を廃止する場合、上記(ア)で述べた、新たに被包括関係を設定する場合と同様に、信者その他の利害関係人に対し、当該規則の変更の案の要旨を示して、その旨を公告する必要があります。公告は所轄庁への認証申請の2か月前に完了していなければならない点も同様です。
では、どのような違いが手続上あるかというと、被包括関係を廃止する場合は被包括関係を廃止する旨を包括宗教団体に通知するだけで足りるという点にあります。つまり、被包括関係を廃止するには、包括宗教団体の承諾をとる必要はなく一方的な通知をすればよいということです。仮に、規則に包括宗教団体の承認を要する旨の規定があったとしても、その承認を得る必要はありません(法26条1項)。
なぜ、このような違いがあるのでしょうか。それは、憲法20条が保障する信教の自由が関係しています。
憲法20条1項は、「信教の自由は、何人に対してもこれを保障する」と規定しています。信教とは、宗教の信仰のことです。参拝・布教活動・宗教的式典といったおよそ一切の宗教的行為が憲法20条で保障されています。そしてこれは、宗教団体にも保障されます。
宗教団体に信教の自由が保障される以上、宗教団体がこれまでと異なる信仰に基づき、新たな宗教活動を開始することも憲法20条第1項により保障されます。
この場合に、今まで所属していた包括宗教団体の承認がなければ、新たな宗教活動を行うことができないとすると、憲法20条1項に違反することになります。
そこで、被包括関係を廃止する場合は、包括宗教団体の縛りを不要とし、被包括宗教法人からの通知で足りるという規定になっています。ただ、手続的保障の観点から、包括宗教団体は、被包括関係の廃止に係る規則変更の手続に違反があると判断したときは、その旨を当該被包括宗教法人の所轄庁及び文部科学大臣に通知することができることになっています(法26条4号)。
所轄庁への規則変更認証申請手続においては、公告をしたこと及び包括宗教団体に対して通知をしたことを証する書類の添付が必要となります(法27条3号)。
(ウ) 被包括関係を廃止すると同時に、新たに別の包括宗教団体と被包括関係を設定する場合
上記(ア)と(イ)同時に行う場合です。この場合、(ア)及び(イ)で述べた各手続をとる必要がありますが、重複している点は、まとめて一回の手続で済ますことができます。
(2) 合併に伴う規則の変更
2つ以上の宗教法人は、合併して1つの宗教法人となることができます(法32条)。合併によって、1つの宗教法人が存続し他の宗教法人が解散する吸収合併の場合、存続する宗教法人の規則に従って規則変更及び合併の手続が必要となります(法31条・35条)。合併に伴う規則の変更については、後に述べる合併の手続の箇所で述べます。
(3) 住居表示の実施等に伴う規則の変更
宗教法人の事務所の所在地は規則記載事項であり、事務所を移転した場合は規則変更と登記が必要になります(法12条1項3号・26条1項・53条)。
しかし、「住居表示に関する法律」による住居表示の実施に伴い、その所在地の住所に変更があった場合、つまり、事務所を移転したのではなく、行政上の都合によって、住所の表示が変更された場合は、所轄庁での認証手続は不要となります。
ただし、規則に記載している事務所の所在地と住居表示に使われる住所が異なるため、各寺院において規則の変更をし、法務局にて変更登記を行ったうえで、所轄庁に届出をする必要があります。
なお、市町村の合併、境界の変更等により、行政区画、郡、区、市町村内の町、若しくは字、又はこれらの名称に変更があった場合は、その変更によって登記があったものとみなされるため、当事者において変更登記の申請をする必要はありません(法65条、商業登記法26条)。この場合、登記官が職権でその変更をすることができます。
8 まとめ
以上のように、宗教法人の規則を変更する場合は、寺院内部の手続きから登記や届出等が必要になります。どこまで手続きが必要かは宗教法人ごとの要件が変わり、また規則変更の内容によって異なります。当事務所では、規則変更に必要な手続きにだけでなく、規則変更の内容についてもアドバイスを行っております。宗教法人の規則は、法人運営の基礎となりますので適切な寺院運営のためにも、是非、規則の見直しをご検討ください。