近年、墓石の代わりに樹木を植えて供養する樹木葬が注目を集め、そのニーズは高まる一方です。しかし、樹木葬を始めるには、墓地と同様に「墓地、埋葬等に関する法律(以下「墓埋法」といいます。)」に基づく都道府県知事(または市区町村長)の許可が必要です。無許可で樹木葬を運用した場合には罰則が科されます。
本記事では、樹木葬を検討している寺院をはじめとする宗教法人様向けに、その経営許可申請の具体的な手続きを解説します。事前相談から必要書類、住民説明会の重要性、そして許可取得後の注意点まで、一連の流れを分かりやすくご紹介します。
さらに、許可申請時に提出する管理規約の作成ポイントや、既存の墓地を樹木葬に変更する際の注意点にも触れ、樹木葬の運営を成功させるための重要な要素を網羅的に解説します。
目次
樹木葬とは
樹木葬とは、土に樹木を植えてその下に遺骨を埋葬するタイプの埋葬方法です。簡単にいうと墓石を建てて埋葬していた従来型のタイプではなく、樹木が墓石の代わりになるイメージです。墓石が並ぶところより樹木が並んでいる方がさわやかな印象もあることから、近年、墓石を建てるより樹木葬を好む方が増えています。また、個別に墓石を購入するには費用がかかりますが、樹木葬では墓石の購入は不要となりますので、費用面からも樹木葬のほうが需要があるようです。
樹木葬を始めるには許可が必要
冒頭にも書きましたが、樹木葬を始めるには、墓地を始めるのを同様に墓埋法の規定により都道府県知事(市または特別区においては市長または区長)の許可が必要です。許可なく樹木葬を運営した場合には罰則の規定も定められていますのでご注意ください(墓埋法20条)。
樹木葬の経営許可申請の手続きについて
樹木葬を始めるには、墓地経営許可申請が必要です。ご住職や寺院に関わる人からすると「経営」という言葉に違和感を抱く方もいるかもしれませんが、墓地の運営は事業と考えられており、許可の名称は経営許可申請となります。従って、本来であれば寺院規則に「事業」の章を設けていない場合は、規則の変更が必要になります。規則の変更手続きについてはコチラをご参照ください。
事前相談
先ほどより、樹木葬の運用を開始するためには行政機関の許可が必要だと述べていますが、樹木葬を新たに設置するの許可要件は、公衆衛生の観点からその地域の実情に応じた必要な条件を各市町村長が定めています。
そのため、樹木葬を始めることを考えた場合は、事前にどういった基準で許可がなされるのかを管轄の市町村に確認しておくことが大切です。
また、樹木葬の許可は、樹木葬を始めるための工事に着手する前に申請して許可を得ておく必要があります。必ず事前相談は必要とお考えください。
事前協議と必要書類について
市町村へ事前相談に行くと、申請に必要な事前協議書の作成をお願いされることになります。事前協議書には、樹木葬を始めるために概要を決めて記載していきます。
経営主体・所在地・樹木葬の規模・図面・所在地における法令上の規制の有無、近隣地の確認・費用面などです。事前協議書を作成したら、下記の書類を一緒に再度、役所に相談に伺いながら事前協議を進めていきます。
- 法人の登記事項証明書
- 宗教法人の規則や規約の写し
- 責任役員会議事録・総代会議事録
- 樹木葬を行う場所の位置図・周辺地図
- 樹木葬を行う土地・建物の登記事項証明書
- 地積測量図・公図又は地番図
- 樹木葬配置図
- 収支計算書、収入・支出に関する書類
- 檀信徒名簿・利用希望檀信徒名簿
- 近隣住民の同意や説明状況など
- 樹木葬管理規則
住民説明会・標識の設置
樹木葬の設置には周辺住民の理解が求められます。各自治体の条例によって内容は異なりますが、樹木葬を設置する場所から〇〇〇メートル以内の住民に対して住民説明会を開催する必要があるところや、自治会長、隣接地の方の同意書を求められるケースなどがあります。
これは、樹木葬の許可に必要だからというわけではないですが、近隣住民の方とは日ごろから良好な関係を構築しておくことが望ましいです。また状況によっては、他の宗教法人が同意取得の対象になることもあります。樹木葬に限らず、納骨堂や墓地(合葬墓含む)でトラブルになりやすいのは近隣関係との問題が多いので慎重に準備を進めてください。
住民の同意が許可要件として必要なくても、工事するための標識の設置が必要になる自治体もあります。決められた標識のサイが大きい場合もありますので、その場合は標識を作成してくれる業者も探す必要があります。標識の設置に加えて近隣住民への説明が必要な場合もあります。
許可申請・工事への着手
事前協議が整うと、許可申請を行います。事前協議において内容は全て整理されているため、許可申請それ自体に特に追加で必要となる書類は少ないケースが多いです。行政の担当者から工事にとりかかっていいですよと言われたら工事に着手することになります。工事の着手時期が行政の判断によって決まるため、このあたりの事情や流れは工事業者の方と十分に協議しておくことが大事です。工事が完了すると役所の方が現地確認にこられます。
事前協議で提出した図面と不一致はないか、排水の確認など各要件を満たしているかを確認されます。
許可証の交付
現地確認が完了すると許可証が交付されます。早い場合は、現地確認が完了したその時点で交付されることがあります。許可証が交付されると樹木葬の経営を開始することができます。
樹木葬管理規約の作成について
樹木葬の許可を事前協議の段階で管理規約を作成して提出する必要があります。この管理規約は、実際に樹木葬の申込をされた方と寺院側との契約上の拘束力が発生します。何かトラブルが起きたときに規約の定めは重要な解釈基準となります。
私の経験上、管理規約は作成していても内容を確認してみると不十分なものがほとんどです。契約を解除したいが規約に契約解除事由が不十分であれば何をもって契約解除の根拠になるかが問題となります。
行政に提出する管理規約は最低限のことが書いていれば問題ありませんが、実際の運営をおこなうには規約の作成は非常に重要なものになります。
樹木葬の管理規約の作成はひな形で対応するのではなく、寺院の考え方を反映した内容で作成することが必要です。ぜひ、専門家に依頼して作成しておきましょう。
樹木葬のはじめるときの注意点
樹木葬の許可は、工事着工前に申請する必要があります。ところが土木工事を行う事業者の中にはそのような許可基準を理解していない事業者もいます。発注する寺院も墓埋法や各自治体の条例による規制があることは理解する必要があります。
うっかり工事を先に始めてしまうと許可申請のときに大きな障壁となります。また樹木葬経営許可の申請代理は行政書士の領域です。行政書士以外の人に許可申請の依頼をするのはやめましょう。
既存の墓地の一部を樹木葬に変更する場合
新たに区画を作り、そこを樹木葬して使用するのでは、既存の墓地の一部を樹木葬として利用する場合には新規の許可ではなく墓地経営変更許可が必要になる場合があります。
変更とはいうものの「許可」であるため、申請に必要な書類は新規の許可申請とあまりかわりません、ただ、許可要件を満たしていることが前提ですが、すでに許可を取得している墓地に関するものなので新規の許可よりは得やすいのが一般的です。
樹木葬の許可についてよくある質問(FAQ)
樹木葬の許可についてよくある質問をまとめました。
Q1. 境内の空き地や所有している山林に、許可なく木を植えて遺骨を埋めても良いですか?
A. 絶対に避けてください。たとえ寺院の所有地であっても、無許可での埋葬は法律違反(罰則の対象)となります。
樹木葬は、見た目がどれだけ自然に見えても、法律上は「墓地」の扱いになります。そのため、墓地埋葬法に基づき、市長などの許可を得ていない土地に遺骨を埋めることはできません。
無許可で運用を始めると、墓地埋葬法違反に問われるだけでなく、お寺の社会的信用を大きく損なうリスクがあります。
Q2. 既存の古いお墓を壊して、その区画を「樹木葬」にリニューアルする場合も新規の許可が必要ですか?
A. 新規ではなく「墓地経営変更許可申請」が必要になるケースが一般的です。
すでに墓地としての許可を得ている敷地内での変更であれば、ゼロから新設するよりもハードルは下がる傾向にあります。
ただし、提出する書類(図面や管理規約の書き換えなど)のボリュームは新規申請とほぼ変わりません。自治体によっては「変更届」という軽い手続きで済む場合もあるため、工事を計画する前に必ず役所の窓口へ確認しましょう。
Q3. 近隣住民への説明会や同意書の取得は、拒否できない必須の要件ですか?
A. 自治体の条例によって異なりますが、実務上は「必須」と考えて動くのが安全です。
多くの自治体では、トラブル防止のために「敷地境界から〇メートル以内の住民への説明会」や「自治会長の同意」等を条例で義務付けています。これらは近隣住民との調和は図る目的があります。
仮に明文の規定がなくても、後から「景観が変わった」「参拝者が増えて騒がしい」といったクレームに発展するのを防ぐため、事前の丁寧な説明と良好な関係づくりは不可欠です。
墓地納骨堂の許可だからというわけではなく、日頃から近隣住民との関係は良好にしておくことが大事です。また、近隣には信者さんが住んでいることが多いかと思います。信者さんとのトラブルが起きないように日頃からのケアは必要だと考えます。
Q4. 手続きをスムーズに進めるために、先に土木工事や樹木の植樹を始めても問題ありませんか?
A. いいえ、必ず「許可が出てから着工」してください。
樹木葬の経営許可は、工事着手前に申請して取得するのが大原則です。行政への申請前にうっかりフライングで工事を始めてしまうと、最悪の場合、申請そのものが受け付けられなくなったり、原状回復を求められたりする大きな障壁となります。
提携する施工業者がこのルール(墓埋法)を正しく理解しているかどうかも、事前に確認しておく必要があります。施工業者が理解していなかったり、勘違いしているケースは多くみられます。その場合であっても不利益を被るのは宗教法人になるので十分に気を付けてください。
Q5. ネット上にある「管理規約のひな形」をそのまま使って運営しても大丈夫でしょうか?
A. 行政への申請は通るかもしれませんが、実際の運営におけるトラブルは防げません。
ひな形は必要最低限の一般論しか書かれていないため、以下のような「樹木葬特有のデリケートな問題」に対応できないケースがほとんどです。
・樹木が枯れたり、大きくなりすぎたりした場合の植え替え費用は誰が持つのか
・管理料が何年も滞納された場合の対応や遺骨の処理
・「個別の引き取りはできません」という事前の合意をどう書面で残すか
・解約事由の明確化、解約後の処置、参拝時のルールなど
お寺の未来を守るためにも、ひな形をそのまま流用せず、寺院の実情に合わせたオリジナルの規約を専門家(行政書士)と共に作り込むことを強くお勧めします。
まとめ
樹木葬に人気が高まっていることは事実ですが、人気が高まってきているからといって寺院の規模からみて過分な規模での樹木葬を展開することは注意が必要です。
樹木葬をはじめるには、先に工事を行うなどの先行投資が必要です。信者様の声などを十分にリサーチして当該寺院で十分な需要があるかを判断してから取り掛かかってください。
樹木葬をこれから始めたいとお考えで許可申請についてお悩みの方おられましたら、弊所までご連絡ください。