宗教法人が不動産を売買するときは法律や規則に則った手続きを経る必要があります。特に「売る」ときは注意が必要です。よくあるご相談は、引き渡し直前になって「宗派の承認を得ていない」「公告をしていない」のでどうすればいいですかという趣旨のご相談です。このような問合せは、実は不動産会社や司法書士の先生からも頂いております。不動産の売買と聞くと、不動産会社がその道のプロですが、不動産会社の方でも宗教法人の手続きのことについては良く分かっていない方が多くおられます。そのため、株式会社が不動産を売却するように手続きを進めて売買契約を締結し、いざ登記申請を行おうとする段階で司法書士から上記2点の質問がなされて気が付き大慌てということになります。不動産売買の手続きは不動産と売る時と買う時で異なります。それぞれの場合について詳しく解説していきます。
目次
宗教法人法の確認
まず、前提として宗教法人法が確認が必要です。宗教法人が不動産を売却することについての重要条文が宗教法人法23条・24条にあります。条文を要約すると、宗教法人の各規則に定められて手続きを行い、売却するより1か月前に信者その他の利害関係人に公告そしなければならないとの定めがあります。しかも不動産のうち境内建物若しくは境内地の場合はこれらの手続きを行わずに行った行為は無効になると書いています。不動産を売却には法律で手続きが定められており、境内建物・境内地の売却は、手続違反の場合は売買契約が無効になると書いていますので注意が必要です。
寺院規則の確認
上記に述べたように、不動産を売却にするには法律上各規則の規定に従って手続きを行いなさいと書いています。そこで、各お寺の規則を必ず確認しておく必要があります。被包括宗教法人の場合、宗派によってことなりますが多くの規則には「責任役員会の議決」「総代の同意」「公告」「宗派代表役員の承認」という趣旨の文言が書いています。つまり、役員会を開いて公告を行い宗派代表役員の承認を得てから売却してくださいということになります。宗派代表役員の承認については申請書類が宗派毎に定められていますので事前に所属の宗派にご確認ください。気を付けて頂きたいのが宗派代表役員の承認が必要ということになると、その手続きに必要な期間をあらかじめ見込んでおくことが必要になってきます。単立寺院の場合は宗派代表役員の承認という手続きはありません。
不動産を売るとき
宗教法人が所有する不動産は、個人の資産とは異なり、信者や檀家からの寄進などによって維持されている、いわば「公的な資産」です。そのため、その売却は単なる財産処分ではなく、法人の根幹に関わる重要な行為と位置づけられています。重要な行為であるから法人内での手続きや信者などに売却することを周知する必要がでてきます。
法律(宗教法人法)や法人の規則では、信者をはじめとする利害関係人を保護し、手続きの透明性を確保するために、厳格な手順が定められています。ここでは、不動産を売却する際に踏むべき具体的なステップを順に解説します。
責任役員・総代・檀家との話し合い
宗教法人の所有物は檀家などから寄進を受けて存在するものです。そのため檀信徒には公告などで知らせる必要があるのですが、そもそも話し合いも一切しないでいきなり公告を出すと、信頼関係が崩れかねません。
寺のために使って欲しいと寄進したものが何の相談もなく売却されるとなると、住職への不信感が募り、紛争や檀家離れにつながることもあります。この事前の話し合いは法的な要件ではありませんが、事前説明しておくことをお勧めします。
売買契約の締結
不動産が売買される手続きをみると、一般的にはまずは売買契約を締結し手付金の支払いがなされます。その後に残代金の支払いと名義変更の登記申請が行われます。つまり売買契約と代金全額の支払い及び名義変更に必要な申請には一定期間が空くことが多いです。このようなケースで売買契約を締結する時は、かならず停止条件を付けてください。停止条件とは、その条件が達成されなければ契約の効力は発生しませんという意味です。
どういった条件をつけるかというと「宗教法人法及び宗教法人〇〇寺規則に定めのある手続が完了したことを停止条件とする」といった趣旨の条項を付けておきましょう。なぜこのような条件を付けておくかというと、多くの不動産売買契約書には、登記移転日を定めておきます。そのため、登記移転までに宗教法人で行っておくべき手続きを終えていないと登記移転日に登記手続きができなくなり債務不履行(登記名義する義務を履行できない)になり、その結果違約金を支払う必要がでてくる可能性があるからです。先ほどみたように、宗派代表役員の承認が必要な場合には、宗派で手続きを行うのに必要な期間を見込んでおく必要があります。また公告は1か月前までに完了しておく必要があります。これらの期間を見込んで登記移転日を決めないといけません。また公告は1か月前までに完了と書きましたが別途公告期間が必要になりますので詳しくは後述します。停止条件を付けるということは買主にそのことを理解してもらう必要があります。買主が急いでいる場合はトラブルの原因になりかねないのでご注意ください。停止条件とか難しいと感じる方は、契約を締結する前に必要な手続きを先にすましておくことも有りでしょう。
責任役員の議決
不動産を売却するときは責任役員の議決が必要となります。規則に定めがあれば総代や護寺会等の同意も必要になります。規則や宗教法人法では、過半数の議決で足りる場合もありますが、包括宗教法人の宗規によっては責任役員及び総代全員の同意が必要とされている場合もありますので注意が必要です。
公告
檀信徒や利害関係人に対して1か月間の期間を定めて公告を行う必要があります。この公告は、公告文を掲載する日数が規則で定められており(通常、7日間か10日間)、この掲載期間が終了してから1か月間となります。つまり法律上は1か月前までに公告を完了しておく必要がありますが、これは公告文の掲載が終わってから1か月が必要という意味です。また、公告の掲載期間は、民法の考えから、前後1日ずつ必要となります(例えば、掲載期間が7日であれば合計9日間必要となります。)つまり、公告期間が7日間と規則に書いている宗教法人の場合は、1か月と9日間が最低限必要になります。ここも注意が必要です。
宗派代表役員の承認
不動産の売却については、規則の定めにより、被包括宗教法人の場合は包括宗教法人の代表役員の承認が必要とされている場合があります。
この場合、公告の1か月に宗派代表役員の承認に要する期間も別途必要になりますので、確認のうえ不動産の買主などには事前にスケジュールをお伝えしておきましょう。
決済
上記の手続が完了したら決済を行い、不動産登記を行います。不動産の売却により財産目録に変更が生じますので忘れないでおきましょう。
不動産を買うとき
不動産の購入も、売却と同様に、宗教法人の財産を動かす重要な行為であり、慎重な手続きが求められます。責任役員会での議決など売却時と共通する手続きもありますが、法律上の要件、特に公告のルールには大きな違いがあります。
売却時とは異なり、購入そのものに1か月の公告は通常不要ですが、資金調達のために融資を受ける場合などには別の公告義務が生じます。ここでは、不動産を購入する際の特有の手続きと注意点を解説します。
責任役員・総代・檀家との話し合い
不動産の購入には、多額の資金が必要です。宗教法人のお金を住職の一存のみで使い道を決めるのは、金額が多い時ほど慎重に進めることをお勧めします。最近では納骨堂を始めたいから土地の購入を検討する方がおられますが、その場合はあらかじめ納骨堂の許可がとれるのかを検討してからにしましょう。納骨堂の許可についてはコチラをご参照ください。
売買契約の締結
不動産を購入するときも宗教法人法上や規則上の手続が必要になりますので契約を締結する時は、かならず停止条件を付けてください。
条件の内容については売却するときと同様に「宗教法人法及び宗教法人〇〇寺規則に定めのある手続が完了したことを停止条件とする」といった趣旨の条項をつけましょう。停止条件を付けるのが面倒な場合は先に手続きを済ましておくのもよいでしょう。
責任役員の議決
不動産を購入するときも責任役員の議決が必要となります。宗教法人法や規則には売却ではなく購入するときには記載がないことがありますが、宗教法人の事務の決定には規則に定めがない場合であっても責任役員の過半数の議決が必要と宗教法人法19条に記載がありますので責任役員の議事録はしっかりと作成しておきましょう。
融資や担保を設定するときは公告が必要
不動産を購入するときは売却の場合と異なり、1か月間の公告が必要とされていませんが、購入資金のため銀行融資を受ける場合は、長期融資として借入に対する信者などへの公告が必要であり、購入する土地に担保設定する場合も公告が必要となります。また、ほとんどの被包括宗教法人では宗派代表役員の承認も必要となっています。つまり、購入するための資金調達の方法等によっては手続きが煩雑になる場合があります。売主が早く売り払いたいと考えている場合はこれらの期間をあらかじめ説明しておかないとトラブルの元になりますのでご注意ください。
宗派代表役員の承認
先に述べましたが、被包括宗教法人の場合は、規則の定めにより、購入する不動産に抵当権などの担保を設定する場合、不動産の処分に準ずることから、不動産を売却する場合と同様に、被包括宗教法人の場合は包括宗教法人の代表役員の承認が必要とされている場合があります。
この場合もまた、公告の1か月にプラスして宗派代表役員の承認に要する期間も別途必要になりますので、不動産の売主などには事前にスケジュールをお伝えしておきましょう。
決済
上記の手続が完了したら決済を行い、不動産登記を行います。不動産を購入したら財産目録にも反映しましょう。
登録免許税が非課税になる場合
宗教法人が宗教行為の用に供する不動産については固定資産税などの税金が非課税となります。
不動産を購入するときは、不動産の評価額に応じた登録免許税や不動産取得税といった税金を納める必要がありますが、既に宗教行為に利用している不動産であれば、これらの税金が非課税となる場合があります。
現状、全く宗教行為の用に供していない場合は非課税とはなりません(非課税について詳しくはコチラをご参照下さい)。
宗教法人が不動産を売買する手続きについてよくある質問(FAQ)
宗教法人が不動産を売買する手続きについてよくある質問をまとめました。
Q1. 手続き(公告や宗派の承認)を怠って境内地を売却してしまったらどうなりますか?
A. 法律上、その売買契約自体が「無効」となります(宗教法人法第24条)。
一般企業のように「後から手続きを済ませればいい」というわけにはいきません。
万が一、手続きを飛ばしたまま引き渡しや登記を行ってしまうと、売買そのものが最初からなかったことになります。それだけでなく、期限までに有効な登記を移転できなかったとして、買主から多額の違約金や損害賠償を請求されるペナルティ(住職の責任問題)に発展するリスクがあります。
参考:宗教法人法第24条
宗教法人の境内建物若しくは境内地である不動産又は財産目録に掲げる宝物について、前条の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもって対抗することができない。
Q2. 規則にある「1ヶ月前に公告」とは、具体的に何日間掲示すればよいですか?
A. 「公告文の掲載期間」+「丸1ヶ月間」の猶予が必要です。「公告文の掲載期間」は、各宗教法人の規則(5条あたりに記載していることが多いです。)に定めがあります。この「広告文の掲載期間」ですが注意が必要です。
例えば、掲載期間が7日と書いている場合、初日と最終日にそれぞれ1日ずつプラスした日数の掲載が必要になります。そのため掲載期間が7日であえば9日間掲載が必要であり、掲載期間が10日であれば12日間掲載が必要になります。
「1ヶ月間貼っておけばいい」という勘違いが非常に多いですが、正しくは「公告の掲載が終了した翌日から数えて、1ヶ月が経過した後に初めて売買ができる」という意味です。広告に必要な期間、掲載したことを証明するため、広告文とは別に広告証明書を作成して、広告は信者さんが確認していることを証明する写真も撮っておくと良いでしょう。
【スケジュール例:規則で7日間の掲示が必要な場合】
・前後日を含めて約9日間掲示
・掲示終了後、1ヶ月(30〜31日間)の待機期間
・合計:約40日間
この期間を満たさないと手続違反(無効)になるため、余裕を持った売却スケジュールの策定が必要です。
Q3. 土地を「購入」するだけであれば、公告や宗派の承認は一切不要ですか?
A. 「買うだけ(現金一括など)」なら1ヶ月の公告は不要ですが、融資を受けたり抵当権を設定したりする場合は必要です。
不動産の購入自体には法律上の公告義務はありません(責任役員会の議決は必須です)。しかし、購入資金を銀行から借り入れる場合(長期借入)や、購入した土地に担保(抵当権)を設定する場合は、売却時と同様に1ヶ月前の公告や包括宗教法人(宗派)の承認が必要になります。
Q4. 不動産会社から「先に普通の売買契約を結びましょう」と言われましたが、応じて大丈夫ですか?
A. 必ず「停止条件(特約)」を盛り込んだ契約にしてください。不動産会社は宗教法人法の特異性を知らないことが多いため、通常の書式で契約を結ぼうとします。
しかし、前述の通り公告や宗派の承認には数ヶ月の時間がかかります。契約書には必ず「宗教法人法および当法人規則に定める手続き(公告・宗派の承認等)が完了したことを停止条件とする」という特約を入れてもらい、手続きが万が一不承認になった場合にペナルティなしで解約できるように自衛してください。
Q5. 不動産を購入した際、登録免許税や不動産取得税を非課税にするにはどうすればよいですか?
A. 専ら宗教行為のために現実に使用していることについて所轄庁から証明書を受ける必要があります。
ただ不動産を購入しただけでは非課税にはなりません。例えば「将来的に本堂を建てるための更地」や「現時点では誰も使っていない空き家」の状態では課税されます。
現実的にすでに礼拝施設や境内地として現実に使用を開始しており、都道府県などの所轄庁から「境内建物・境内地証明書」を交付してもらうことで、初めて登録免許税等の非課税措置が適用されます。
所轄庁の証明には、職員の現地確認があったりするため数か月かかる場合もありますので事前のスケジュールが必須です。
まとめ
以上のように宗教法人が不動産を売買する場合には、法律や規則の定めにより、一般の法人が購入する場合より手続きが複雑で期間も必要となります。
このような手続きの存在を知らずに不動産売買契約などを締結してしまうと、あとで相手方から期間内に手続きできなかった場合に違約金・損害賠償を請求される可能性や手付金の没収や手付倍返しなどのペナルティが生じる可能性があります。
このような法の不知によって宗教法人に損害が生じた場合は住職の責任追及も十分考えられます。不動産をはじめとする、高額な商品などを売買するときは適正な手続きをとるようにご注意ください。