宗教法人が不動産を売買するときは規則に則った手続きを執る必要があります。その手続きは不動産と売る時と買う時で異なります。それぞれの場合について詳しく解説していきます。
目次
1 不動産を売るとき
(1) 責任役員・総代・檀家との話し合い
宗教法人の所有物は檀家などから寄進を受けて存在するものです。そのため檀信徒には公告などで知らせる必要があるのですが、そもそも話し合いも一切しないでいきなり公告を出すと、信頼関係が崩れかねません、その結果、住職への不信感が募り、紛争や檀家離れにつながることもあります。この事前の話し合いは法的な要件ではありませんが、事前説明しておくことをお勧めします。
(2)売買契約の締結
売買契約を締結する時は、かならず停止条件を付けてください。停止条件とは、その条件が達成されなければ契約の効力は発生しませんという意味です。どういった条件をつけるかというと「宗教法人法及び宗教法人〇〇寺規則に定めのある手続が完了したことを停止条件とする」といった趣旨の条項をつけましょう。
(3)責任役員の議決
不動産を売却するときは責任役員の議決が必要となります。規則に定めがあれば総代の同意も必要になります。規則や宗教法人法では、過半数の議決で足りる場合もありますが、包括宗教法人の宗規によっては責任役員及び総代全員の同意が必要とされている場合もありますので注意が必要です。
(4)公告
檀信徒や利害関係人に対して1か月間の期間を定めて公告を行う必要があります。この公告は、公告文を掲載する日数が規則で定められており(通常、7日間か10日間)、この掲載期間が終了してから1か月間となります。また、公告の掲載期間は、民法の考えから、前後1日ずつ必要となります(例えば、掲載期間が7日であれば合計9日間必要となります。)
(5)宗派代表役員の承認
不動産の売却については、規則の定めにより、被包括宗教法人の場合は包括宗教法人の代表役員の承認が必要とされている場合があります。この場合、公告の1か月に宗派代表役員の承認に要する期間も別途必要になりますので、不動産の買主などには事前にスケジュールをお伝えしておきましょう。
(6)決済
上記の手続が完了したら決済を行い、不動産登記を行います。
2 不動産を買うとき
(1)責任役員・総代・檀家との話し合い
不動産の購入には、多額の資金が必要です。宗教法人のお金を住職の一存のみで使い道を決めるのは、金額が多い時ほど慎重に進めることをお勧めします。
(2)売買契約の締結
不動産を購入するときも宗教法人法上や規則上の手続が必要になりますので契約を締結する時は、かならず停止条件を付けてください。条件の内容については売却するときと同様に「宗教法人法及び宗教法人〇〇寺規則に定めのある手続が完了したことを停止条件とする」といった趣旨の条項をつけましょう。
(3)責任役員の議決
不動産を購入するときも責任役員の議決が必要となります。宗教法人法や規則には売却ではなく購入するときには記載がないことがありますが、宗教法人の事務の決定には責任役員の過半数の議決が必要と宗教法人法19条に記載がありますので責任役員の議事録はしっかりと作成しておきましょう。
(4)融資や担保を設定するときは公告が必要
不動産を購入するときは売却の場合と異なり、1か月間の公告が必要とされていませんが、購入資金のため銀行融資を受ける場合は、長期融資として借入に対する信者などへの公告が必要であり、購入する土地に担保設定する場合も公告が必要となります。
(5)宗派代表役員の承認
被包括宗教法人の場合は、規則の定めにより、購入する不動産に抵当権などの担保を設定する場合、不動産の処分に準ずることから、不動産を売却する場合と同様に、被包括宗教法人の場合は包括宗教法人の代表役員の承認が必要とされている場合があります。この場合もまた、公告の1か月にプラスして宗派代表役員の承認に要する期間も別途必要になりますので、不動産の売主などには事前にスケジュールをお伝えしておきましょう。
(6)決済
上記の手続が完了したら決済を行い、不動産登記を行います。
3 登録免許税が非課税になる場合
宗教法人が宗教行為の用に供する不動産については固定資産税などの税金が非課税となります。不動産を購入するときは、不動産の評価額に応じた登録免許税や不動産取得税といった税金を納める必要がありますが、既に宗教行為に利用している不動産であれば、これらの税金が非課税となる場合があります。現状、全く宗教行為の用に供していない場合は非課税とはなりません(非課税について詳しくはコチラをご参照下さい)。
4 まとめ
以上のように宗教法人が不動産を売買する場合には、法律や規則の定めにより、一般の法人が購入する場合より手続きが複雑で期間も必要となります。このような手続きの存在を知らずに不動産売買契約などを締結してしまうと、あとで相手方から期間内に手続きできなかった場合に損害賠償を請求される可能性や手付金の没収や手付倍返しなどのペナルティが生じる可能性があります(不動産会社も知らない場合がほとんどです。)このような法の不知によって宗教法人に損害が生じた場合は住職の責任追及も十分考えられます。不動産をはじめとする、高額な商品などを売買するときは適正な手続きをとるようにご注意ください。
また、自分のお寺や宗教法人にはどのような手続きが必要なのか詳しく知りたい方は、当事務所までお気軽にご相談ください。